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独立のドミノ倒しを狙うクルド人

シリア北部を実効支配するクルド人政党、民主統一党(PYD)のスポークスマンは、一方的にシリアの「連邦制」を宣言した。スイスのジュネーブにおける内戦の和平協議本格化を前にして、支配地域の自治権確立を目指した動きと云える。

すでに5つのクルド人勢力は、新たに“Kurdish National Alliance in Syria”という同盟をつくり、シリアに連邦制国家を導入するよう要求する、と2月にはスポークスマンが述べていた。

トルコ~シリア~イラク~イランに跨って分布するクルド人。イラクのクルド人はイラク戦争後に自治権を確立しており、現在内戦下にある自治政府は2016年11月までに独立の是非を問う住民投票を行う、と発表している。

シリアのクルド人が今後、自治権を確立したあとに独立を志向するのは、イラクの例からも明らかだと思われる。

Syrian Kurds set to announce federal system in northern Syria Wed Mar 16, 2016 1:39pm EDT Reuters

トルコ政府は、クルド労働者党(PKK)とシリアのクルド人政党である民主統一党(PYD)と、その戦闘部隊クルド人民防衛隊(YPG)は連携して行動している、と認識している。

PKKのテロはトルコ国内で頻発しており、イラクとシリアのクルド人の動向によって、トルコが態度を硬化させるのは目に見えている。

トルコには、約1400万人のクルド系のトルコ国民(クルド人)がいる。総選挙が2015年6月と同年11月に2回行われており、クルド系の左派政党・国民民主主義党(HDP)はそれぞれ80議席、59議席を獲得している。

クルド系トルコ人はトルコ国民として被選挙権と選挙権を行使している。つまり、テロ組織として認定されているPKK以外のクルド系トルコ人は目立って迫害されていない。ただし、議会内でのクルド人勢力の後退はテロの活発化に繋がっている、とも云える。

もともとトルコにはシリア北部に安全地帯をつくる構想があったが、シリア内戦へのロシア介入で頓挫し、さらにロシアと事実上の共闘関係にあるクルド人勢力によっても、実現を阻害されてきた。

また、エルドアン大統領が推進する大トルコ主義(汎テュルク主義)にとって、クルド人勢力の独立はテュルク系民族とのアクセスに対する政治的障壁となりかねない。大統領は、大トルコ主義の一環として死語と化しているオスマン語の公教育への導入を進めている。

つまり、第1次大戦後の小トルコ主義を採用した“戦後レジームからの脱却”をトルコのエルドアン大統領は行いたいのだが、ISIS(イスラム国)にせよ、クルド人勢力にせよ、利害が一致せずにコントロールできなければ、大トルコ主義の障害となってしまう。

アムネスティの発表によると、シリアのクルド人政党PYDと戦闘部隊のYPGは占領した領域に居住するクルド人以外の民族・宗派の人々を強制的に追い出している、という。こうした排他的姿勢と大トルコ主義が衝突する瞬間が、シリアのクルド人が独立を宣言する瞬間になるだろう。

クルド勢力が「連邦制」宣言へ 和平協議さらに複雑化 呼称を協議、支配圏確立急ぐ 2016.3.16 21:47 産経ニュース

 【カイロ=大内清】シリア北部を勢力圏とするクルド人組織「民主連合党」(PYD)のミルザル報道官は16日、産経新聞の電話取材に対し、北部地域のクルド勢力などが連合し支配地域での独立性を高める「連邦制」を一方的に宣言する考えを明らかにした。各組織の代表者ら約200人が同日、同地域の呼称などを協議しているという。

 シリア内戦をめぐっては、アサド政権を支援するロシアが、将来的な解決策として連邦制の導入に言及している。ただ、ジュネーブで再開された和平協議が本格化もしていない中でクルド勢力が支配圏確立に向けた動きを強めることは、事態をさらに複雑化させることにつながりそうだ。

 和平協議で政権側の交渉役を務めるジャアファリ氏は16日、「このような一方的な動きについてはコメントしない」とクルド勢力への不快感を露わにした。

 PYDやその軍事部門は、米国の支援を受けてイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)と対峙しているほか、一部の反体制派とも対立。反体制派との戦いではロシアとも連携を強めている。シリアのクルド人は従来、少数民族として従属的な立場にあったが、内戦の長期化とISの台頭の中で有力国の支援を引き出しつつ、勢力圏拡大を進めている格好だ。

 ただ、こうした動きは、トルコなど周辺国の神経を逆なでしている。

 国内で非合法組織「クルド労働者党」(PKK)と敵対するトルコは、PKKの実質的な傘下であるPYDの強大化を警戒。クルド勢力が独立性を高め、シリアが連邦化に向かう事態となれば、トルコ国内のクルド人を刺激する可能性もあるだけに、強く反発するのは間違いない。

 一方、和平協議を仲介するデミストゥラ国連特使は15日、政権側と反体制派がそれぞれ、移行政権作りなどの論点に関する考え方を文書で提出したと明らかにした。詳細は不明だが、同特使は、双方の主張を照合して協議の糸口を探り、両者が対面しての直接協議につなげたい考えだ。

 デミストゥラ氏は14日の協議再開に先立ち、今後の和平協議で連邦制導入論も議題となる可能性を示唆している。そんな中で、協議参加資格を与えられなかったクルド勢力が一方的に連邦化への動きを加速させることは、協議の行方に影響を及ぼす可能性がある。

 他方、ケリー米国務長官は15日、来週にもロシアを訪問し、プーチン大統領やラブロフ外相と会談すると発表した。ロシアが15日からシリア駐留軍主要部隊の撤収を開始したことを、和平協議前進に向けた機運醸成につなげる狙いがある。

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言論・信教の自由を侵害するエルドアン

トルコ政府の支持により、新聞社ザマン(Zaman)が警察に占拠され、これに抗議するデモ隊も鎮圧された。当局は、新聞社がフェトフッラー・ギュレン師率いる「ギュレン運動」との繋がりがあるとして弾圧に及んだ。「ギュレン運動」は師が始めた宗教的な色彩を持つ市民運動団体である。

Turkish police fire teargas at protesters at seized newspaper Saturday 5 March 2016 16.39 GMT The Guradians

Turkish police tear gas newspaper; EU 'worried' about media crackdown Saturday, Mar. 05, 2016 11:01AM EST The Globe and Mail

トルコ政権に批判的な大手紙が政府管理下に、各国から懸念の声 2016年03月06日 11:29 AFP BB NEWS

以前の2013年12月28日のエントリーでも取り上げたが、

従来、協力関係にあった公正発展党(AKP)と「ギュレン運動」は、2010年頃から関係に亀裂が生じていたが、2013年頃から「ギュレン運動」出身のテクノクラート、例えば司法関係者がパージされていた。同時期、「ギュレン運動」の放送局や新聞社(今回のザマン社)・予備校に対する閉鎖命令が出されていた。こうして権力闘争とともに三権分立が蔑ろにされ、言論・信教の自由が侵害され始めていた。

2014年12月16日のエントリーの時点でも、

ギュレン運動の関連団体のメディア幹部が拘束されており、今回の新聞社占拠とデモ隊鎮圧はこの流れにあると思われる。3年近く権力闘争が続くということは「ギュレン運動」の勢力が根強いことも示しているし、エルドアン大統領も独裁者としての権能を持っている訳ではないことも示している。しかし、徐々に言論・信教の自由が侵害されていることは間違いない。

クルド人、難民申請の欺瞞

米国の老舗雑誌、アトランティック誌の論説は「クルド人とは誰なのか?」と問いかける。

クルド人と一概に云っても、地理的にはトルコ、シリア、イラク、イランの4カ国に跨って分布しており、エスニシティ(民族性)においては比較的同一であっても、ネイション(国民)として統合された世界観、政治的目標を必ずしも共有していない。

トルコでは、約1400万人のクルド系のトルコ国民(クルド人)とその居住地域は、エルドアン大統領率いる与党、公正発展党(AKP)の地盤でもあった。

Who Exactly Are ‘the Kurds’? FEB 25, 2016 The Atlantic

難民申請しているクルド人は、その多くが埼玉県蕨市と隣接する川口市に居住している。以下の読売新聞では、女性を暴行した犯人は難民申請中のトルコ人とされているが、まず間違いなくトルコ国籍のクルド人(クルド系トルコ人)であろう。

ネイション(国民)としてはトルコ人であり、エスニシティ(民族性)としてはクルド人である。ネイションとエスニシティがほぼ同一の我が国ではこの分け方は理解しづらい。

難民申請中に女性乱暴容疑、トルコ人2人逮捕 2016年02月22日 11時34分 読売新聞

「ご飯のクオリティ酷い」「私たちは動物ではない」不法在留外国人、国費負担の収容生活「改善」求めハンスト 2016.2.22 11:00 産経ニュース

はてさて欧州を襲うイスラムフォビアと同じように自ら「難民はその国で政治的自由を奪われ、財産を失ったあげく、その生命すら危うい哀れで弱い存在でなければならない」というイメージを貶める行為は、難民申請しているクルド人自身の政治的立場を弱くするだけだろう。

この辺の政治的センスは疑われるべきであって、

2016年2月12日のエントリーでも取り上げたが、

2015年10月25日にトルコ大使館前でトルコ人とクルド系トルコ人の間に騒擾があった。クルド系トルコ人は自らの意志で在外者投票のために大使館へ赴いて投票した。これはトルコ国民(ネイション)として選挙権を行使したということにほかならない。

この行為ひとつだけで彼らは難民ではないことになる。

難民条約(1951年の難民の地位に関する条約)では、難民の定義は以下の通り定められている。

難民条約第1条A(2)
(a)人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に、迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有すること
(b)国籍国の外にいる者であること
(c)その国籍国の保護を受けることができない、又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者であること

これらの要件に該当すると判断された人を条約難民と呼ぶ。

難民条約1条A(2)の(c)「国籍国の保護を受けることができない」「国籍国の保護を受けることを望まない者」は、在外者投票でトルコ国民としての権利を行使すれば、難民としての権利を行使することと相矛盾する。

これだけで難民認定基準を満たさない理由になる。クルド系トルコ人が難民に認定されないのは、彼らが難民でないからである、と自ら証明しているのであるから。

イスラエルの相対的優位はいつまで続くか

ストラトフォーの設立者ジョージ・フリードマンは、周辺諸国が暴動・革命・内乱・内戦・介入などで疲弊する一方で、イスラエルの戦略的優位性がこれまでになく増しているとした。しかし、内戦が終結するなどして、周辺諸国の秩序が回復した場合には優位性が一挙に覆される脆弱性を有している、と論じる。

Israel’s Strategic Vulnerability Feb. 25, 2016 Geopolitical Futures

スンニ派とシーア派の戦いは、実のところ、イスラエルとスンニ派諸国の利害を一致させるに到っている。

Israel May Have Found a ‘Solution’ to Palestinian Knife Attacks JANUARY 5, 2016 - 4:02 PM Foreign Policy

パレスチナ自治政府は、複数の国際組織でのオブザーバー加盟が認められるなど、外交上の成果を重ねている一方で、ヨルダン川西岸地区とガザ地区双方で、若者による“ナイフ・インティファーダ”が2015年9月以降続いている。

2015年12月3日のエントリーで触れたように、

イスラエル軍高官の話では、平日で平均15回、週末に平均40回の暴動が発生している。そのほとんど、約95%は組織的ではなく単独犯行であり、若年層の失業者など、将来に展望がなく追い詰められた一匹狼型の性質を有している。例えば、ハサミを持って攻撃を試みたパレスチナ人の女学生に、10発の弾丸を撃ち込んで制圧する、といった事例も起きている。

一匹狼型の性質から“個別のインティファーダ”("Intifada of the Individuals")、台所にありそうな凶器で犯行に及んでいることから “ナイフ・インティファーダ”("Knife Intifada")と呼ばれている。

内戦が起きている国々の影に隠れて、アラブ・中東地域において、パレスチナは二次的な問題に落ちつつある。また、内戦の副産物となっているテロリストの発生と難民の流入によって、イスラムフォビアが急速に拡まっていることから、インティファーダを行うパレスチナ人は欧米世論の支援も期待できなくなっている。

裏返せば、周辺諸国が介入するシリア内戦やイエメン内戦が収拾されて、その矛先が再びイスラエルに向かうとき、その戦略的優位性は失われると、ジョージ・フリードマンは指摘する。

“一帯一路”、テヘランと浙江省を連結する

中国共産党が推進する“一帯一路”構想の一環として陸路、浙江省義烏市からの貨物列車がテヘランに到着した。中共はここ6年連続でイランの最大貿易相手国となっている。

China Deepens Its Footprint in Iran After Lifting of Sanctions JAN. 24, 2016 The New York Times

TEA LEAF NATION China’s New Grand Strategy for the Middle East JANUARY 26, 2016 Foreign Policy

First freight train from China arrives in Iran in 'Silk Road' boost: media Tue Feb 16, 2016 4:25am EST Reuters

“一帯一路”は、新疆ウイグル~中央アジア~トルコ~ロシア~ドイツまでを陸路で結ぶ“シルクロード経済ベルト”と、スリランカ~パキスタン~ギリシア~ベルギーを海路で結ぶ“21世紀の海上シルクロード”との二つの構想から成る。

大陸国家の支那としては中国共産党の“一帯一路”のうち、“シルクロード経済ベルト”が主、“21世紀の海上シルクロード”が従となるはずだ。これに対して海洋国家の我が国としては“自由と繁栄の弧”が主、“ユーラシア・クロスロード構想”が従となる。

南シナ海が紛争状態に陥り、シーレーンが寸断された場合、中国共産党にとって“シルクロード経済ベルト”はまさしく生命線となる。

サウジとイランの消耗戦は続く

2014年10月~12月にサウジアラビアが仕掛け始めた原油価格低落による消耗戦は、未だデフォルトに陥る産油国やエネルギー企業がないまま続いている。

サウジアラビア、ロシア、カタール、ベネズエラの主要産油国4ヵ国は、原油生産の増産を凍結する、と条件付きで合意したものの、シーア派のイラン・イラクや米国のシェールガス・シェールオイル業者は合意に加わらないため、原油価格の低落を抑えるだけの実効性が欠けていた。

主要産油4カ国の減産合意に至らず、北海ブレントが約4%下落 2016年2月17日(水)11時09分 ニューズウィーク日本版

核合意に基いて制裁解除されたイランでは、独仏の企業などが大いにリスクを取りに行っている。ただし、安保理決議2231号では制裁解除のほか、改めてミサイル、武器の禁輸が定められている。イランと独仏の間の大型契約は当然、原油輸出が担保となっており、イラン側は増産傾向を強めるだろう。これでは産油国の減産どころか増産凍結に関する合意も無理だろう。

German Chancellor to pay upcoming visit to Iran Jan. 18, 2016 The Iran Project

Truck maker Daimler signs agreement to return to Iran Mon Jan 18, 2016 10:11am EST Reuters

Factbox: Companies rush to Iran as sanctions are lifted Tue Jan 19, 2016 5:42am EST Reuters

また、米国のシェールガス・シェールオイル業者も油井数を減少させているものの、油井1本あたりの生産性を高めて、生産量は横這いどころか増産させている。

つまり、イノベーションの進展に伴って、シェールガスの生産コストは順次下がっている。業者間の競争で倒れるところも出てくるだろうが、対する産油国の社会福祉コストも下げなくてはならなくなり、政治的な波瀾が起きる可能性も高まる訳だ。

参考URL:
イランの核問題に関する国際連合安全保障理事会決議第2231号に基づく措置の履行 平成28年1月22日 外務省

和平か継戦か、内戦の鍵を握るトルコとクルド

トルコ軍は同国国境に隣接するシリア北部のMenagh空軍基地に砲撃を開始した。

トルコ大統領「血の海をもたらす」米のクルド支援に激怒 2016.2.11 00:53 産経ニュース

この空軍基地は、シリアのクルド人政党である民主統一党(PYD)の戦闘部隊クルド人民防衛隊(YPG)及び共闘するシリア民主軍(SDF)が、イスラム原理主義過激派から奪取したもの。トルコ政府はYPGとクルド労働者党(PKK)は連携していると見做している。トルコのYilmaz国防相は「YPG及びSDFがMenagh空軍基地から撤退しない限り攻撃を続行する」と述べた。

Syria conflict: Turkey shells Kurdish militia 13 February 2016 BBC

もともとトルコにはシリア北部に安全地帯をつくる構想があったが、シリア内戦へのロシア介入で頓挫し、さらにロシアと事実上の共闘関係にあるクルド人勢力によっても、実現を阻害されてきた。

ロシアの持ち込んだ防空システムはシリア北部からトルコ東部をカバーしており、この関連でロシア軍機の撃墜事件にもつながり、両国の対立を深めていた。

Detailing Russian Forces in Syria 3 November 2015 RUSI Defence Systems

トルコ政府はこれを契機にMevlut Cavusoglu外相を通じて、自国とサウジアラビアがシリア北部に地上軍を投入することを検討している、と発表した。また、サウジアラビア国防省は、トルコ国内のインジルリク空軍基地を使用して、シリア爆撃に乗り出す。名目上、有志連合の形を借りながら、NATOの領域内にアラブ・中東各国の軍が入る先例になる。

Syrian Kurds form new political alliance, call for federalism as solution to ongoing civil war February 14, 2016 ARA NEWS

さらに、シリアにおける5つのクルド人勢力は、新たに“Kurdish National Alliance in Syria”という同盟をつくり、シリアに連邦制国家を導入するよう要求する、と新しい同盟のスポークスマンが述べた。

Syria: The winners and losers are becoming clear in this war Sunday 14 February 2016 Independent

米露が中心となってシリア内戦の和平会議を開催するさなか、トルコとクルド人勢力の両者が波瀾要因になっている。

独立クルディスタンの狂瀾が始まる

内戦続くイラクとシリアの混乱の間隙を突いて、イラク北部に自治政府を持つクルド人は2016年11月までに独立の是非を問う住民投票を行うと、自治政府のトップであるバルザニ議長が発表した。

クルド独立投票「11月」 自治政府トップが意欲 2016.1.28 12:17 産経ニュース

独立問う住民投票表明 クルド自治政府トップ 2016.2.4 11:33 産経ニュース

独立するクルディスタンの領域が恒久的にイラク北部までで抑えられるのか否か。クルド人が少数民族として居住する各国(トルコ、シリア、イラン)などと同意できれば、敵はイラク政府だけになるかもしれない。しかし、そんなに容易く事が運ぶとも思えない。

確かに、イラクのクルディスタン地域は自治権を獲得している。また、シリアのクルド人も事実上の自治領域を維持している。

イラクのクルド人は、事実上の国軍であるペシュメルガを組織しており、ISIS(イスラム国)と対峙している。米国はイラク北部に潜伏するクルド労働者党(PKK)をテロ組織と認定しているが、ペシュメルガには軍事支援を行っている。イラク国軍や比較的穏健とみられるイスラム民兵組織への支援が失敗したことを事実上、認めている米国にとって、ペシュメルガへの支援増大は選択肢のひとつと見られている。

米国と同じNATOの一員であるトルコ政府は、PKKとシリアのクルド人政党である民主統一党(PYD)と、その戦闘部隊クルド人民防衛隊(YPG)は連携して行動している、と認識しており、トルコ-シリア間の国境からISISの戦闘員がリクルートされていくのを徹底的に取り締まらず、半ば黙認していた。この政策の反動が現在のトルコ国内のテロ頻発を招いている。

シリア内戦において、YPGとその他のクルド人勢力はアサド政権と戦いつつ、ほかの民兵組織とも戦っている。この状況は運命が暗転したときにはクルド人の独立・自治最大の懸念点へと繋がっていく。内戦に介入しているロシアとシーア派(イラン、ヒズボラなど)の尻馬に乗る形で、むしろアサド政権以外の勢力を攻撃していることは何より憎悪の対象となる。

アムネスティの発表によると、シリアのクルド人政党PYDと戦闘部隊のYPGは占領した領域に居住するクルド人以外の民族・宗派の人々を強制的に追い出している、という。これが事実ならば戦争犯罪にほかならない。シリアのクルド人は自治権獲得後の領域内の不安要素を排除するため、文字通り異なる民族の排除に乗り出している。

トルコの態度硬化は目に見えており、これがトルコ国内のクルド人の政治的動静と、イラク北部のクルディスタン独立にも悪影響を及ぼすだろう。

2015年6月と11月、トルコでは総選挙が行われた。定数550の議会において、クルド系の左派政党・国民民主主義党(HDP)はそれぞれ80議席、59議席を獲得している。クルド系トルコ人はトルコ国民として被選挙権と選挙権を行使している。つまり、テロ組織として認定されているPKK以外のクルド系トルコ人は目立って迫害されていない、と云える。

以前、渋谷にあるトルコ大使館前でトルコ人とクルド系トルコ人の間に騒擾があった。これは在外者投票のために両者が集まっていたためで、クルド系トルコ人は決定的に政治から排除されていない証左となる。また、この騒擾に関係して、トルコ系クルド人の政治家が本国から来日していたことも、国内の政治的対立とその激化はあっても、完全な政治的排除まではされていないことを示している。

埼玉県蕨市に難民申請しているクルド系トルコ人が多数居住して“ワラビスタン”などと呼称するメディアもあるが、トルコ系クルド人の政治家が往来できる以上、難民申請そのものが根底から覆されるのではないか。

彼らは蕨市で街を巡回するボランティアを組織して、地域社会に貢献しているようだが、これは警察権を否定する一種の自警団になりかねない。街を巡回するボランティアが自警団になり、さらに暴力集団に変わる可能性も皆無とは云えないだろう。

また、イラク北部がクルディスタンとして独立して、なおかつ各国が承認した場合、難民申請しているクルド系トルコ人はどうするのだろう。彼らはトルコ国民(ネイション)であり続けるのか、それともクルド人のアイデンティティを優先するのか。独立クルディスタンの狂瀾はトルコ~シリア~イラク~イランの紛争をさらに複雑化させるに違いない。

イラン、国際金融ネットワークへの復帰

2012年3月17日、イランの核開発に対する制裁措置として、イラン国内の金融機関は、民間金融機関の国際間送金・通信取引ネットワーク・システムから遮断された。EUの決定に従って、ベルギーに本部を置くSWIFT(国際銀行間通信協会)と呼ばれる業界団体がこの措置を行った(2012年3月21日のエントリー参照)。

SWIFTの説明によれば、その役割は以下の通り。

SWIFTは、合計210ヶ国で10,000以上の金融機関と企業を接続する通信プラットフォーム、製品およびサービスを提供するメンバーが所有する協同組合です。SWIFTは、そのユーザーがコストを削減し、オペレーション・リスクを削減し、業務の非効率を排除し、安全かつ確実に自動化され、標準化された金融情報を交換することを可能にします。SWIFTはまた、相互に関心のある基準や議論の問題を定義し、市場慣行を形成するために共同作業するために金融業界をサポートします。

9 Iranian banks to re-connect SWIFT on Monday on January 31, 2016 Real Iran

2016年2月1日、核合意に伴う制裁措置の解除の一環として、SWIFT(国際銀行間通信協会)への再接続が行われることになった。

凍結されてきたイランの対外資産は約1000億ドル~1500億ドル(円換算約11兆円~17兆円)、加えて約13億ドル(約1500億円)の利子が付く。ただし、イランの銀行はSWIFTに復帰すると同時に、過去の負債や利子の支払いを行わなければならない。

Iran: Bank Mellat Opens Accounts to Settle Shell Debts Tue Jan 26, 2016 12:2 FARS NEWS AGENCY

さらにイランの銀行は国際金融の潮流から外れていたために、国際業務に支障が出ると予想されている。

British regulators help Iranian banks come in from the cold January 31, 2016 10:57 am  THE FINANCIAL TIMES

イングランド銀行はペルシア国際銀行(Persia International Bank)、メッリ銀行(Melli Bank)、セパ銀行(Bank Sepah International)の三行の国際業務復帰のため、自己資本比率の導入やガバナンス体制の強化などを助力する。

女は斬首され、男は強制徴募されるハザラ人

アフガニスタンの少数民族ハザラ人の苦難がつづいている。イランに難民として逃れた者たちはシリア内戦に参戦させられ、アフガニスタンに残った者たちは女子供まで斬首される。

アフガニスタンの人口の10%程度を占めるとされるハザラ人は、スンニ派主体の同国でシーア派を信仰している。また、その容貌がモンゴル系であるために、前世紀から政策的に差別の対象となってきた。難民として逃れたイランでもシーア派でありながら、モンゴル系の容貌から差別されている。彼らはイスラム共同体から半ば外れた存在なのだ。

2015年5月25日のエントリーでも、

シリア内戦では、アサド政権側にアフガニスタンのハザラ人がイラン経由で半強制的に志願兵として組み込まれている。ハザラ人は、モンゴル系のシーア派というマイノリティの立場にあり、不法移民として200万人近くイランに流入しており、彼らはイラン革命防衛隊を通じて1000人単位で徴募されている。

と、取り上げたが、

ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、未だアフガニスタンへの強制送還をちらつかせながら、民兵への志願を強制的に行っている、という。強制送還されるにせよ、アフガニスタン帰還が叶うならば、それでも良いと思われるのだが、帰ったとてハザラ人に対する差別は根強い。

Iran coerces Afghans to fight in Syria: HRW January 29, 2016 4:25 pm The Indian Express

2015年11月、アフガニスタン南部ザブール州でタリバンもしくはISIS(イスラム国)に誘拐されたと見られる7人が斬首された遺体で発見された。首都カブールでは犠牲者の棺を担ぎながら、ハザラ人のデモ隊が法の裁きを訴えた。

ハザラ人7人の斬首遺体見つかる、アフガン首都で大規模デモ 2015年11月11日 20:48 AFP BB NEWS

ハザラ人がシリア内戦で戦闘のノウハウを身に付け、武器を手にして、アフガニスタンに戻り、自らの勢力を守る以外、現状を打ち破る方法はない。

世俗派と原理主義派が対峙するリビア

リビア内戦後の政治的対立から分裂していたトリポリとトブルクのふたつの政府を統一させようとした国連の仲介は失敗に終わった。

リビアでは、2011年にカダフィ政権を打倒した勢力がイスラム原理主義派と世俗派に分裂して、2014年以降、再び内戦に突入した。2014年の議会選挙で敗北したイスラム原理主義派が叛旗を翻し、そのまま首都トリポリを掌握し、逐われた世俗派がトブルクに入り、それぞれ政府を樹立した。議会選挙で勝利していた世俗派のトブルク政府が国際的承認を受けている。

Libya conflict: UN-backed unity government rejected 25 January 2016 BBC NEWS

リビアはトリポリタニア、キレナイカ、フェザーンという三つの歴史的地域から構成されている。ふたつの政府の支配地域はトリポリタニアとキレナイカ、概ねこの歴史的区分に沿っている。残るフェザーンはトゥアレグ人とほかの民兵組織が勢力を保っている。ISIS(イスラム国)などの原理主義過激派は政府の並立状態の間隙を縫って、ベンガジなどの都市に勢力を張っている。

筆者は、リビアを領土の一体性保全を図りつつ、住民自決権(利権再分配)を尊重するならば、トリポリタニアとキレナイカとフェザーンの連邦国家へ改編すべきだろうと考えている。

2012年4月2日のエントリーでは、

ユーゴスラビア連邦が崩壊したとき、もっとも激しい内戦が繰り広げられたボスニア・ヘルツェゴビナが、東西ローマ帝国の分割線の丁度真下だったことに驚いた記憶がある。歴史の妙と云うべきか、リビアの東西もユーゴスラビア同様、東西ローマ帝国の境界で分かれている。

リビアではトリポリタニアが西ローマ、キレナイカが東ローマの境界に沿って分かれている(旧ユーゴスラビアではスロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ヴォイヴォディナが西ローマ帝国、セルビア、モンテネグロ、コソボ、マケドニアが東ローマ帝国の境界に沿っていた)。

リビアは、かつてのトリポリタニア、フェザーン、キレナイカの連合国家となり、各国家が高度な自治を行う(ボスニア・ヘルツェゴビナ方式とでも云うべき)か、または三地域が各自独立する(コソボ方式とでも云うべき)かが望ましい。現政権が全土を支配しても、部族・地域対立に変化はないからだ。

と、書いた。

ふたつの政府に分立した状態を続けても構わないと思うが、国際社会は、不法移民の流出と原理主義過激派の跋扈が気がかりなのだろう。

強力な統一政府が存在しないと、不法移民の取締と過激派の浸透を防げないのも事実だ。しかし、ふたつの政府が内戦に疲れ果てたり、第三勢力に全土を支配されそうになって、利害調整を本格的に取り組む機運が醸成されなければ、和平交渉は進まないのではないか。

パキスタンの核をサウジアラビアが使う日

ロシアがシリア内戦への軍事介入を始めたことが契機となって、急激なパラダイム・シフトがアラブ・中東地域に起こっている。

中東の覇権を握る覇者(ヘゲモン)が、合衆国からロシア連邦に替わった。このパラダイム・シフトが引き起こす外交的震動は善悪を超えたダイナミズムとなって、スンニ派とシーア派の争いの過程にも影響を与え続けている。

イラン経済制裁解除、敵対国は警戒強める 2016 年 1 月 18 日 09:35 JST WSJ日本版

Stocks Slump After Saudis Threaten Nukes Against "Nefarious" Iran  01/19/2016 14:54 Zero Hedge

オバマ政権が、対シリア外交と対イラン外交で妥協した結果、イスラエルは米国から事実上離反して、スンニ派湾岸産油国と利害の一致を見るようになった。イスラエルはスンニ派の穏健な見えざる同盟者として行動すると思われる。

さて、2013年前半頃にはエジプト(軍部及び暫定政権)~サウジアラビア~UAE~クウェートのスンニ派連合と、ムスリム同胞団(スンニ派)~ハマス(スンニ派)~ヒズボラ(シーア派)~シリア(アサド政権)~イラン(シーア派)~中共~ロシアのシーア派及びバース党・共産党・原理主義政党の混成連合が出来ていた。

サウジアラビアは新しいサルマン国王の代になる直前からはムスリム同胞団とハマスにも接近している。より大きなスンニ派大連合を画策している、と思われる。そこにパキスタンやバングラデシュも構想に入っていくのが自然だろう。

何より、サウジアラビアはイランの核開発に対抗するために自国の核開発を進める。また過渡的にニュークリア・シェアリングを図るならば、イスラエルの核をシェアするよりもパキスタンの核をシェアする方が政治的な摩擦やリスクは少ない。

すると同時に国家間の対立が連鎖する可能性もある。イランがアラブ連盟とパキスタンに挟まれることにより、イランがインドに接近して、パキスタンをインドとイランで挟み込む地政学的な連鎖現象が起きるかもしれない。

サウジアラビア、構造改革の危険な賭け

2015年5月6日のエントリーで触れたように、サウジアラビアのサルマン国王は、異母弟の皇太子を退位(事実上の廃太子)させて、同母弟の甥を副皇太子から皇太子に、自らの息子を副皇太子とした。

皇太子は内相を務め、副皇太子は防衛相を務めている。

初代国王イブン・サウードが最も寵愛したスデイリ家出身のハッサ妃との間に生まれた7人の男子スデイリ・セブンの系列で王位継承権順位の1位、2位を固めた。イブン・サウード王の息子たちに当たる第2世代が高齢化するなか、孫の第3世代はスデイリ閥が継承する意向を示したことになる。

外交では、人事面でサウジアラビアの外相を40年の長きに渡り務めてきたSaud al-Faisalから、駐米サウジアラビア大使Adel al-Jubeirへと交替させた。

2015年5月の米国との二国間会談には国王は訪米せず、皇太子と副皇太子を向かわせた。外相も前駐米大使であり、外交の継続性の観点からは問題はないように思われるが、予定では国王自身が会談に臨むとされていた。米国のイランへのエンゲージメントに対する失望もしくは抗議の姿勢を示したものと思われる。

内政では女性の教育副大臣を解任し、ワッハーブ派の戒律を守る「美徳推進・悪徳防止委員会」の責任者を交替させた。前国王のリベラル的施策から保守的施策への政策変更は、スデイリ閥の王位継承の明確化と並ぶサウジアラビアの大きな転換点となる。

さらに、副皇太子は内政面で大きな改革を企図している。それは原油価格の急落に伴う富の再分配の構造改革である。

2014年6月のピーク時に1バレル約115ドルだった原油価格は現在、1バレル30ドル台に落ち込んだ。

産油国の国家財政が均衡するためのブレークイーブンコストはベネズエラが161ドル、イエメンが160ドル、アルジェリアが132ドル、イランが131ドル、ナイジェリアが126ドル、バーレーンが125ドル、イラクが111ドル、ロシアが105ドル、そしてサウジアラビアが98ドルである(シティグループ調べ)とも云われている。

いわゆる湾岸諸国の採掘コストは、もともと非常に低い。しかし、現在は一定以上の原油相場を前提とした社会福祉に手厚い国家予算を組んでいる。社会福祉を維持しながら、イランとロシアを牽制し、コストの嵩む米国のシェールガス・シェールオイルや再生可能エネルギーを潰すために原油安への誘導を行っている。

とは云え約1年半以上の消耗戦がつづき、終わる気配がない。短期資金がショートする恐れが出てきた。消耗戦を止めるか、もしくは国家財政の緊縮を図るかの二者択一に迫られて、財政緊縮へと舵を切った。

副皇太子は、教育と医療の無償提供、公共サービス料金の補助を減らして、増税を行う。また、国営石油会社サウジアラムコほかそのほかの国営企業の株式公開と売却を図るつもりだ。この内政改革に対する反発を抑えるために、外交では先鋭的な施策を取りがちになる。サウジアラビアとイランの国交断絶はこの文脈から読み取れる。

ソ連の滅亡の一因にサウジアラビアが主導した原油価格の低位安定があったことを思い返すと、サウジアラビアの今後の動きがシーア派の雄イランと、内戦中のシリア及びイエメンの命運を大きく左右することは間違いない。サウジアラビアの日量1000万バレルという猛爆撃がロシアをも含めて襲いかかる。

そして、その日量1000万バレルは自らにも跳ね返る。初代国王イブン・サウードが持っていたカリスマをシーア派との戦いの勝利で継承して、原油の富で作り上げた再分配機能を改革しながらも維持できるかが、孫の世代が王位を継承できるかにも繋がっている。

【The Economist】サウジ副皇太子が描く青写真 2016/1/12 3:30 日経

 長年、サウジアラビアは生気がないように見られてきた。莫大な石油の富と米国の力を後ろ盾に、国内を平穏に保つと同時に、近隣諸国ににらみを利かせてきた結果だ。だが、今や石油価格は急落し、米国が中東での指導的立場から身を引こうとしている。こうしたなか、サウジの権力は新世代――特にサルマン国王のお気に入りの息子のムハンマド副皇太子(30)――に移った。砂漠の王国は、変革の嵐によって目覚めようとしているかのようだ。

■国営石油会社の株式公開検討

サウジアラビアは1月2日、47人の処刑を執行した。大半はアルカイダと関係のあるテロリストだったが、サウジ王家に批判的だった著名なシーア派聖職者も含まれていた。これに対する抗議として、イランの首都テヘランにあるサウジ大使館が放火されると、サウジはイランとの外交関係や通商関係を断絶し、航空便も停止した。

 サウジは、これとは別の強硬策も見せる。ムハンマド副皇太子が、これまで閉ざされてきたサウジの経済と政府を開放する青写真を策定したのだ。ここには、国営石油会社サウジアラムコの株式公開の可能性も含まれているという。それは、サウジ王家の存亡を左右し、アラブ世界の未来を変えることにもなる。

 2014年に1バレル110ドルだった原油価格が、今や35ドル弱まで急落している。歳入の90%を石油に依存する政府にとって、原油安は時限爆弾のようなものだ。財政赤字は昨年、国内総生産(GDP)比15%にも膨れ上がった。

 1990年代に原油価格が下落した時、サウジは多額の借り入れを行った。2000年代は、好調だった中国経済によって救われた。しかし、今回の原油安については、サウジの支配層を含め、原油価格が3ケタに戻ると考えている人などいない。それどころか、支配層は自国経済の変革の必要性を知っている。ムハンマド副皇太子は1月初旬に本誌(エコノミスト)の取材に応じ、サウジの抜本的な再設計ともいえる改革の青写真を描いてみせた。

 最初に取り組むのは、財政再建だ。たとえ原油安が続いたとしても、今後5年間で財政赤字を解消するのが目標だ。そぐべきぜい肉はたくさんある。しかし、これは危険の多い作業でもある。税金をとらず、オイルマネーによって教育や医療の無償提供に加え、電力、水道、住宅の料金などを手厚く賄ってきた国のシステムを解体することを意味するからだ。

 15年は、最後の数カ月間の支出を削減したことで、財政赤字がGDP比の20%超に跳ね上がるのを食い止めた。16年の予算には、ガソリン、電力、水道料金の大幅な値上げが含まれている(ただ、多額の補助金が出る状況に変わりはない)。ムハンマド副皇太子は5%の付加価値税、糖分の多い飲料やたばこに対する悪行税、空閑地に対する課税などの新税の導入も確約している。

 税金や補助金の改革は初めの一歩にすぎない。サウジ国民の約7割は30歳未満で、労働者の3分の2は政府が雇用している。30年までに労働人口が2倍に増えると予想されている。今の国家が統制する経済の仕組みを一新し、産業の多角化や民間企業の振興により、マーケット主導の効率性を導入しないかぎり、この国の繁栄はない。

■航空や通信含め民営化を模索

 政府は必要最低限の分野を除き、医療・教育から国有企業に至るまで、民営化や民間による公共サービスの提供の可能性を模索している。民間が提供する医療制度の創設計画もある。航空会社や通信会社、電力会社など20以上の政府機関や国有企業について、完全に、もしくは部分的に民営化できないかを検討している。

 ただ、こうした青写真は実現するのだろうか。言うのは簡単だが、障害もある。サウジは以前も改革を約束し、結局はできなかった。この国の資本市場は脆弱で、官僚の能力はそれ以上に乏しい。若者や石油以外の産業、観光インフラなどに対する投資は必要だが、投資家がサウジの将来を信じられない限り、投資というものは実現しない。その信頼を築くのは難しい。

 理由の一つは、ギリシャ並みの緊縮財政が困難で国民に不人気だからだ。国として国民に手厚い公共サービスを提供してきたのは、政治的な権利を与えていないことの埋め合わせでもある。支出削減を国民が受け入れるには、ある種のガス抜きが必要だが、こうした対策に政府は消極的だ。最近、女性が(ほぼ無力な)地方議会に出馬や投票することが許されたが、それはすでに亡くなった前国王のアイデアだ。

 サウジは宗教的な専制主義を和らげる気はなさそうだ。ムハンマド副皇太子は、女性の運転禁止といった問題について保守的な聖職者らと戦う意志はほとんどない。

 地政学も問題を複雑にしている。イランが拡大主義を強めるにつれて、サウジはスンニ派の擁護者として介入した。自国やバーレーンなどスンニ派が支配する国のシーア派不満分子のほか、イエメンのシーア派武装組織「フーシ」、シリアのアサド大統領など、イランの支援を受けているシーア派勢力と対峙してきた。

■周辺国刺激は経済繁栄損なう

 サウジは、地域の安定のためにはテロリストにメッセージを送る必要があると主張する(それゆえの処刑というわけだ)。サウジに言わせれば、イランはペルシャ帝国の再構築に躍起になっており、それに抵抗し、自国の利益を守らねばならないのだという。だが、この議論は誤っている。サウジは宗派対立している片方のリーダーになってしまうリスクがある。

 イエメンでの戦争は泥沼と化している。サウジからのエジプトや他のスンニ派同盟国に対する支援は枯渇気味だ。サウジの国防と安全保障に対する支出は、政府支出の25%以上を占めており、今後、縮小していく国家予算のより大きなシェアを占めるようになる。地域の緊張関係は、民間投資を妨げることにもつながる。混乱に陥った地域の経済に、いったい誰が巨額な金をつぎ込むのか。

 政府は、国内外での大胆な行為が「強いサウジ」の象徴だと考えているようだ。しかし、強硬な外交姿勢は国民には受けがいいかもしれないが、それによって周辺国を刺激したり、国内の社会改革を阻害することにつながったりすれば、経済的な繁栄はない。ムハンマド副皇太子が、国を破壊するのではなく、再構築したいというのであれば、そのことをよく理解する必要がある。

エスカレーションするスンニ派VSシーア派の戦い

サウジアラビアが、東部州のシーア派指導者ニムル師を処刑したことで、イランの首都テヘランにあるサウジアラビア大使館が襲撃された。これを受けてサウジアラビアはイランと断交、連鎖的にバーレーンとスーダンもイランと断交した。

イラクではシーア派の部族がスンニ派のモスクを焼き討ちするなど、スンニ派とシーア派の区分が互いのエスニシティ意識を高める要因となっている。この意識が部族間の利害対立と結びつき、アラブ・中東各国で内戦を引き起こす原因となっている。

サウジ、シーア派指導者ら47人処刑 宗派間の対立悪化も 2016年 01月 3日 12:22 JST ロイター

サウジで処刑されたニムル師はどんな人物か 2016 年 1 月 4 日 09:24 JST WSJ日本版

サウジがイランと断交、シーア派指導者処刑で宗派対立悪化 2016年 01月 4日 12:47 JST ロイター

イラン、サウジの断交発表を非難 「緊張高める口実探している」 2016年 01月 4日 18:03 JST ロイター

ロシア、イランとサウジを仲裁する用意ある―外交筋=RIA 2016年 01月 4日 19:35 JST ロイター

イラク、複数のスンニ派モスクが襲撃される 2016年 01月 4日 19:35 JST ロイター

バーレーン、イランと国交断絶 2016年 01月 4日 20:48 JST ロイター

スーダンもイランと断交 UAEは外交格下げ、周辺国に影響拡大 2016年 01月 4日 23:25 JST ロイター

イラクでは、スンニ派とシーア派とクルド人の三つ巴に分かれていて、スンニ派居住地域にISIS(イスラム国)の浸透を招いた。イエメンでは、北部にシーア派の分派であるザイド派が分布しており、ザイド派の武装組織フーシがクーデターを起こしたことで内戦の再開とスンニ派諸国の軍事介入が起きた。シリアでは、アラウィー派をシーア派とみなすと人口の15~20%がシーア派となる。

サウジアラビアでは、中央部のナジュド(ネジュド)に厳格なワッハーブ派が分布しており、紅海沿岸のヒジャーズにスンニ派が分布、東部にシーア派が分布している。この宗派の違いが利害対立から内乱・内戦に繋がることを警戒している訳だ。

かくてスンニ派とシーア派の分断線上での戦いは一層激しくなるだろう。すでに両宗派が混在するイラク、シリア、イエメンでは内戦が続いている。それぞれの内戦に介入する国々にとって、自国内の宗派対立はそのまま現在の権力体制の崩壊や内乱・内戦に繋がる危険性を有している。

サウジアラビアに同調してイランと断交したバーレーンは、シーア派が住民の多数を占めているが、王家と支配階級はスンニ派であり、サウジアラビアと同様に宗派対立の激化はそのまま現体制の転覆につながりかねない。

つまり、イランと国交断絶を行うスンニ派の国々には、ひとつは自国内にスンニ派とシーア派の対立を抱える国、ひとつは宗派対立はなくサウジアラビアとの関係が深い国に分かれている。

産油国のチキンレースと国家財政の緊縮化

支那の上海株式市場のバブル崩壊が起きて、今後予想されるバランスシート不況、そして生産年齢人口の減少によるデフレの始まり。支那の爆食の終焉によって、ほかのコモディティとともに原油は中長期的な供給過剰と価格の低位安定に陥ろうとしている。

加えて2014年末には、スンニ派の雄サウジアラビアは全方位の原油安競争を仕掛けたと考えられる。2014年6月のピーク時に1バレル約115ドルだった原油価格は1バレル50ドル以下に落ち込んでいる。

産油国の国家財政が均衡するためのブレークイーブンコストはベネズエラが161ドル、イエメンが160ドル、アルジェリアが132ドル、イランが131ドル、ナイジェリアが126ドル、バーレーンが125ドル、イラクが111ドル、ロシアが105ドル、そしてサウジアラビアが98ドルである(シティグループ調べ)とも云われている。

下記CNNの記事では、サウジアラビアの国家財政均衡のためのブレークイーブンコスト1バレル約106ドルとなっている。そして、現状の原油価格と財政規模が続くと、財政緊縮を行わなければ5年以内で資金枯渇に陥るとIMFが警告し始めた、とある。

コラム:原油相場の安定という幻想 2015年 12月 18日 15:00 JST ロイター

サウジなど中東産油国、5年内に資金枯渇か 原油安響く 2015.11.01 Sun posted at 17:16 JST CNN日本版

いわゆる湾岸諸国の採掘コストは、もともと非常に低い。しかし、現在は一定以上の原油相場を前提とした社会福祉に手厚い国家予算を組んでいる。社会福祉を維持しながら、イランとロシアを牽制し、コストの嵩む米国のシェールガス・シェールオイルや再生可能エネルギーを潰すために原油安への誘導を行っている。

とは云え約1年近い消耗戦がつづき、例えると短期資金がショートする恐れが出てきた。消耗戦を止めるか、もしくは国家財政の緊縮を図るかの二者択一が迫られている。

つくられた“歴史への回帰”とその暴力性

ISIS(イスラム国)がカリフ制の復活を唱えていることについて、歴史を“暴力的”に扱っている、と断じるニューヨーク・タイムズの論評。

The Return of History DEC. 11, 2015 The New York Times

つまり、イスラム教にせよ、仏教にせよ、ヒンドゥー教にせよ、キリスト教にせよ、果てはイデオロギーとしての反日にせよ、近代国家以降のナショナリズムが古い文化を扱うときに、往々にして自己都合で歴史を解釈して利用している構図が明らかになる。

伝統が一度断ち切られたり、歴史的正統性が損なわれたりしたあと(イラクやシリアでは、アラブ民族主義を掲げたバース党の死のあと)に原理主義が台頭したことで、“歴史への回帰”はより観念的で、先鋭的なものになる。近代化の反動、グローバリゼーションの反動が訪れている、とも云える。

こうしてつくられた“歴史への回帰”は、伝統的な価値観を防衛すると云うよりは、縮小していく利権の再分配構造の変化に対応するものになっている。ある意味で、再分配構造を変化させる正統性を“イスラム的”価値観の名の下に求めているに過ぎない。

この“イスラム的”は、それぞれ“仏教的”、“ヒンドゥー的”、“キリスト教的”に代えても構わない。スリランカやミャンマーにおける仏教が内戦下の敵を識別する材料になったように、欧米ではイスラムと非イスラムが敵を識別する材料になるだろう。国民(ネイション)の再編に宗教やイデオロギーが使われている側面もある。

“歴史への回帰”はそれ自体、扱う国民のセンスが問われることになる。国家が社会を変革するために制度設計を行う。社会というものは歴史的空間として存在する。歴史的空間を作り変えるためにはやはり、歴史が必要になる。

作為の契機に歴史の解釈が使われている、と考えるべきであって、イデオロギー的な視野狭窄に囚われると、融通無碍に社会の変革が行えない。むしろ道具としての歴史が暴走する。ニューヨーク・タイムズの論評が語るように歴史を“暴力的”に扱う危険性、歴史の暴力性が存在している訳だ。

復讐するカダフィ大佐の亡霊

アラブ社会主義の雄、カダフィ大佐は政権の座を逐われる前に
「もしも、私の体制が倒れることがあれば、欧州の海岸に200万人の難民が押し寄せるだろう」
と、発言していたことをBBCが伝えている。

アラブ社会主義衰えたりと云えども、リビアとイラク、シリアの政権を倒したあとにイスラム原理主義の抑えを欧米各国がどう考えていたか、良く分からない。そして、死せるカダフィ大佐が復讐者であるならば、欧州に復讐すると同時にイスラム教徒へも復讐する。

The countries where ISIS finds support, in two charts Dec 5, 2015 1:13 p.m. ET Market Watch

Mourning the death of the 'messiah of Africa' 6 December 2015 BBC

米国のシンクタンク、ブルッキングス研究所はISIS(イスラム国)支持のツイートの多い国の順位表を作成した。上位3カ国はサウジアラビア、シリア、イラク。10位以内に米国と英国が入った。

イラクとシリアの内戦に参加している外国人義勇兵で最も多いのは、ロシアからの2700人、サウジアラビアからの2000~2500人、次いでフランスからの1600人超が続く。

人口100万人当たりのISISの戦闘員の人数では、サウジアラビアの107人は別格としても、ベルギーの46人、スウェーデンの32人、デンマークの27人が目立つ。フランスの18人とトルコの6人の対比で分かるが、欧州のイスラム系移民が戦闘員にリクルートされている実態が明らかになった。

難民危機とパリ同時多発テロ、そして米国のカリフォルニア州サンバーナディーノにおけるテロのダイナミズムが、イスラム系移民の運命をより過酷なものにする。

彼らイスラム教徒の内在的なダイナミズムはどこへ向かうのか。彼ら自身が解決できない以上、欧米社会におけるイスラムへの抑圧的な傾向は高まる一方、リベラルの方法論では彼らを救えずにリベラルもまた崩れる状況が続く、と思われる。

議会から司法の戦い、その機先を制する暗殺

1年間に2度の総選挙を経て、クルド人系政党の国民民主主義党(HDP)の躍進は押し留められることとなった。

6月から11月までの再選挙実施までの間、トルコ南東部のクルド人が多数派を占める地域では、夜間外出禁止令を布告される事態も起こった。

シリアとイラクの国境に近い都市Cizreは、国民民主主義党(HDP)の支持者が殺されたと同党が主張して、緊張状態に陥った。

こうした政治的対立は、丁度、トルコ軍がクルド労働者党(PKK)ほかに対する、シリア領内とイラク領内への越境攻撃を始めた時期と、ISISが起こしたと思われるテロが頻発した時期と重なっている。

Top Kurdish lawyer shot dead in southeast Turkey Sat Nov 28, 2015 3:58pm EST Reuters

エルドアン大統領は、クルド人全般に対する脅威をアピールすることで、政権与党である公正発展党(AKP)の過半数を取り戻した。ハイリスクな賭けに勝利した訳だが、これでクルド人の議会における勢力が後退して、司法における権利擁護の戦いが始まらん、という矢先にクルド人弁護士が射殺された。

トルコ政府は暗殺されたかどうかは不明である、と発表したが、国民民主主義党(HDP)側は抗議デモを呼びかけ、警察が放水や催涙ガスで鎮圧に乗り出した。衝突が起きたディヤルバクルの夜間外出禁止令が出されるととともに、内務大臣と司法大臣は哀悼の意を示した。

こうした対立の背景には、再分配できる利権の縮小がある。

約10年間に渡って、公正発展党の政権を支えた外部要因は、なにより経済成長による再分配だった。しかし、2014年のトルコ経済の成長率は2.9%。失業率は11%前後と過去5年で最悪水準。一方で、2011年の成長率は9%前後だった。

経済が縮小するにもかかわらず、小規模な対外戦争によって、政権を維持しているという点においては、外交的な対立を深めるロシアと同一である。

つまり、トルコとロシアは全面対決に陥ることもないが、シリア内戦における国益追求はあきらめたくない。

ただし、ロシア軍機を撃墜したトルコ側のシリア領内での行動の自由はかなり制約されることになった。ロシアはシリア領内に防空システムを導入し始めた。

トルコとシリアの国境はさらに緊張状態に置かれ、NATOが同盟国トルコを応援する名目でロシアとの間に入った。つまり、トルコの単独行動に制限がかけられる。

トルコが外交的失点を取り戻そうと、内政でも強硬姿勢を採ると悪手になりかねない。ロシアとシリア国内のクルド人勢力の利害は一致している。さらにトルコ国内のクルド人勢力がロシアを引き込む場合は不確定要素が強まるからだ。

トルコ2015年11月総選挙結果(定数 550・過半数276)

公正発展党(AKP、保守・中道右派) 317 ▲59
共和人民党(CHP、中道左派) 134 ▲2
民族主義者行動党(MHP、極右) 40 ▼40
国民民主主義党(HDP、左派・クルド系) 59 ▼21

トルコ2015年06月総選挙結果(定数 550・過半数276)

公正発展党(AKP、保守・中道右派) 258 ▼69
共和人民党(CHP、中道左派) 132 ▼3
民族主義者行動党(MHP、極右) 80 ▼27
国民民主主義党(HDP、左派・クルド系) 80

3度目のインティファーダ、絶望深く

最近2ヶ月の間、イスラエルとパレスチナ双方の犠牲者が合計100名を超える暴動が散発的に続いている。

2015年10月17日のエントリーほかでも取り上げたように、

スンニ派とシーア派の戦いは、実のところ、イスラエルとスンニ派諸国の利害を一致させるに到っている。

パレスチナ自治政府は、複数の国際組織でのオブザーバー加盟が認められるなど、外交上の成果を重ねているが、これとてガザ地区とヨルダン川西岸地区に分かれるパレスチナ人の日々の暮らしにとっては、民生の向上に繋がる訳ではない。

むしろ内戦が起きている国々の影に隠れて、アラブ・中東地域において、パレスチナは二次的な問題に落ちつつある。

イスラエルは、パレスチナ人の就労や流入を防ぐ、「分離壁」とでも云うべきフェンスを設置してきたが、このフェンスを導入し始めたハンガリーなど中欧諸国にとっては、イスラエルの非情な措置は手本として見習うべきものとも云える。

しかし、ムスリム人口が多く都市近郊などに分散しているフランスは、内戦から帰ってくるテロリストの居住地をフェンスで囲い込むところまでは出来ない。

Israeli military warns violence could go on for months and risks getting worse Thursday 26 November 2015 06.45 GMT The Guardian

一方、囲い込まれたパレスチナでは突破を試みる抵抗が始まっている。

イスラエル軍高官の話では、平日で平均15回、週末に平均40回の暴動が発生している。そのほとんど、約95%は組織的ではなく単独犯行であり、若年層の失業者など、将来に展望がなく追い詰められた一匹狼型の性質を有している。

例えば、ハサミを持って攻撃を試みたパレスチナ人の女学生に、10発の弾丸を撃ち込んで制圧する、といった事例も起きている。

すでにインティファーダが始まっている、と思えるが、イラク~シリア~イエメンの内戦のニュースバリューに比べて、欧米の興味を引くところは少なく、スンニ派勢力の支援も利害の交錯から限定的なものになる。つまり、それだけ絶望の深い、長い長い抵抗が続くことになる。

“原理主義、その調子をやめよ”と、プーチンが云う

ロシア軍機がトルコ軍によって撃墜された。しかし、これによって両国が全面対決に陥るとも思えない。

そもそも、この撃墜事案の以前からロシア軍機の領空侵犯は度々行われていた。根本的にはシリア内戦に介入するトルコとロシアの意図が相違していることに原因がある。

ロシアとシリア国内のクルド人勢力の利害は一致している。ロシア軍機のトルコ領空侵犯が偶然か意図的かは分からない。意図的と見ると、シリアからイラクに伸びるクルド人勢力の回廊(事実上、独立したクルディスタンとなりうる)はイランから中央アジアに接続できる。しかし、対立が過ぎると、トルコはこの回廊のアクセスを喪失するかもしれない。

これではクルドとロシアの接近によって、エルドアン大統領の企図する大トルコ主義の夢は、さらに遠ざかることになる。最悪の事態を避けるには、ロシアによる牽制の意図を汲みとって、妥協点を探る必要が出てくるだろう。

と、2015年10月6日のエントリーでも述べたが、

(もしも、大トルコ主義の夢を実現したければ)トルコはイスラム原理主義への傾倒をやめるべきだ、とプーチン大統領は述べている。

ロシア政府は、サウジアラビアの王侯貴族がISISに支援を行っていると訝しんでいるし、トルコの国境管理の甘さがISISの戦闘員供給を支えていると踏んでいる。

歴史上、もっともイスラムの世俗主義化に貢献してきたのはソビエト連邦と、その後裔国家であるロシア連邦だった。

しかし、ソ連のアフガン侵攻(1979年~1989年)は、全世界におけるイスラムの世俗主義化から原理主義化へのターニングポイントになった。ソ連崩壊の一因ともなった(2015年10月10日のエントリー参照)。

ISIS(イスラム国)が領域支配しているシリアからイラクの回廊を失っても、彼らはパキスタンのトライバルゾーンや、コーカサス山脈、中央アジアのキルギス、タジキスタンなどに逃げ込む可能性がある。そうなれば、ますますロシアの力に頼らなければならないジレンマに陥るだろう。

トルコ、政府指導部がイスラム化促している=ロシア大統領 2015年 11月 25日 20:15 JST ロイター

[モスクワ 25日 ロイター] - ロシアのプーチン大統領は25日、トルコの政治リーダーらがトルコ社会のイスラム化を促してきたと指摘し、それが問題との認識を示した。ロシアのメディアが伝えた。

タス通信によると、トルコ軍によるロシア軍機撃墜から一夜明けて、プーチン大統領は、「問題は、昨日に目撃した悲劇ではない。問題ははるかに根深い。現在のトルコ指導部は何年にもわたり、同国のイスラム化を支援する政策を実行している」と述べた。

民意はクルド人も大統領権限も強化させない

大トルコ主義の先駆者、エンヴェル・パシャはテュルク系民族の諸国との回廊を作るために、アルメニアと衝突した。100年後の今もなお非難されるアルメニア人虐殺が、それである。その悲劇を予め回避するには、ロシアの了解を取りつつ、クルド人の居住地域を通過する必要がある。ところがエルドアン大統領の眼前に、クルド系の国民民主主義党(HDP)が立ち塞がっている。

かつて、エンヴェル・パシャの敗北に続く国家滅亡の危機に瀕して、アタテュルクの強権は確立した。逆転がありうるならば経済がさらに悪化し、シリアとイラクの内戦がトルコに波及するほどの混乱に乗じる形でしか果たせないかもしれない。

と、2015年6月12日のエントリーで触れたが、

シリア内戦をレバレッジにして、エルドアン大統領~ダウトオール首相の与党、公正発展党(AKP)が過半数を取り戻した。ただし、エルドアン大統領の思惑であった大統領権限強化の目標は遠のいた。憲法改正を単独で発議して国民投票を行えるには、330議席が必要なのだが、トルコ国民の民意はクルド系の権力増大を望まなかったのと同時に、権限強化を望まなかった、ということになる。

トルコ総選挙、与党が単独過半数獲得へ 「エルドアン体制」継続 2015年 11月 2日 17:38 JST ロイター

トルコ2015年11月総選挙結果(定数 550・過半数276)

公正発展党(AKP、保守・中道右派) 317 ▲59
共和人民党(CHP、中道左派) 134 ▲2
民族主義者行動党(MHP、極右) 40 ▼40
国民民主主義党(HDP、左派・クルド系) 59 ▼21

トルコ2015年06月総選挙結果(定数 550・過半数276)

公正発展党(AKP、保守・中道右派) 258 ▼69
共和人民党(CHP、中道左派) 132 ▼3
民族主義者行動党(MHP、極右) 80 ▼27
国民民主主義党(HDP、左派・クルド系) 80

3度目のインティファーダにニュースバリューなく

クーデターで政権を奪い、湾岸諸国の介入により政権を逐われたイエメンのフーシ派は、内戦に正規軍を投入して優勢なはずのサウジ空軍基地へ向けて、弾道ミサイルを発射した、とロイター電は伝える。

この予期せぬ攻撃を受けて、という訳ではないが、湾岸協力会議(GCC)諸国はイスラエルの防空システム、アイアンドームを購入しようとしている、という英国SKY NEWSの記事も見られた。

イエメンのフーシ派、サウジ空軍基地に弾道ミサイルを発射 2015年 10月 15日 19:28 JST ロイター

Gulf States Set To Buy Iron Dome System 15:53, UK, Tuesday 13 October 2015 SKY NEWS

スンニ派とシーア派の戦いは、実のところ、イスラエルとスンニ派諸国の利害を一致させるに到った(2013年7月13日のエントリー参照)。

1938年来のサウジアラビアと米国の蜜月は終わり(2013年10月26日のエントリー参照)、米国はメキシコに戻りつつある。

また、イスラエル建国以来続いた米国の蜜月も終わっていることも重なっている(2015年9月4日のエントリー参照)。

ガザ地区を実効支配しているハマスは、エジプトを逐われたムスリム同胞団及び、シリア内戦で疲弊するヒズボラと連携していたために相対的に弱体化した。

サルマン国王の治世になったサウジアラビアは、ムスリム同胞団とハマスとの関係改善を進めている(2015年7月19日のエントリー参照)。

その国王は、同時にガザ地区へ生活物資や武器・人員を通すトンネルを潰しているエジプト軍事政権に資金を提供して、フランスが売却停止したロシア向けの強襲揚陸艦を買い取らせてもいる(2015年9月26日のエントリー参照)。

加えて、イスラエルからのアイアンドーム購入計画である。湾岸協力会議の産油国はパレスチナ人の敵に塩を送っている訳だ。

自治政府を持つとはいえ、ガザ地区とヨルダン川西岸地区に分かれるパレスチナ人にとって、シリア内戦のようにムスリム同胞団とヒズボラの来援は期待できず、3度目のインティファーダは起こすにしても、イラク~シリア~イエメンの内戦のニュースバリューに比べて、欧米の興味を引くところは少なく、スンニ派勢力の支援も上記のように、利害の交錯から限定的なものになる。

Palestinians set fire to Jewish holy site as Israel tensions mount Updated: Oct 16, 2015 20:54 IST Hindustan Times

Israel sets up East Jerusalem roadblocks in bid to stem attacks Wed Oct 14, 2015 4:59pm EDT Reuters

国際機関でのオブザーバー資格など名目的な認知は得られているが、パレスチナの政治経済の実態は悪化している。おそらく、パレスチナ人のフラストレーションは高く、心理的に追い詰められた形でのテロやインティファーダが起きていく。同時にイスラエルの弾圧は激しく、他のイスラム諸国の支持は薄い。

しかしながら、ホワイトハウスと国務省、国防総省、米国議会のイスラエル・ロビーの思惑はバラバラである(2015年3月9日のエントリー参照)。

今こそ、3度目のインティファーダ、それも最後の機会が到来しているのかもしれない。

クルドも戦争犯罪人の列に並ぶ

トルコ~シリア~イラク~イランに跨って分布するクルド人。その国なき民にとって、イラクとシリアの内戦、そしてトルコの再選挙間近に連発するテロは、独立もしくは自治権を獲得する機会が到来したものと捉えることができる。

このままの推移で行けば、トルコはテロによる騒擾状態が続き、ISIS(イスラム国)とクルド労働者党(PKK)が同時にトルコ国内に侵入する最悪の事態も想定できる。

混沌の中から独立を勝ち取れるか否か。すでにイラクのクルディスタン地域は自治権を獲得。また、シリアのクルド人も事実上の自治領域を維持している。

イラクのクルド人は、事実上の国軍であるペシュメルガを組織しており、ISISと対峙している。米国は上記のPKKはテロ組織と認定しているが、ペシュメルガには軍事支援を行っている。イラク国軍や比較的穏健とみられるイスラム民兵組織への支援が失敗したことを事実上、認めている米国にとって、ペシュメルガへの支援増大は選択肢のひとつと見られている。

To Save Iraq, Arm the Kurds OCT. 11, 2015 The New York Times

一方、米国と同じNATOの一員であるトルコ政府は、PKKとシリアのクルド人政党である民主統一党(PYD)と、その戦闘部隊クルド人民防衛隊(YPG)は連携して行動している、と認識しており、トルコ-シリア間の国境からISISの戦闘員がリクルートされていくのを徹底的に取り締まらず、半ば黙認していた。この政策の反動が現在のトルコ国内のテロ頻発を招いている。

トルコ国内のクルド人が、トルコに対する帰属心を全面的に失うことがあれば、それはトルコ内戦の前提条件のひとつとなる。トルコ政府は、政治的に弱体化させてきた小トルコ主義を掲げる国軍の力に頼らざるを得なくなり、エルドアン大統領の大トルコ主義とイスラム原理主義の傾斜はますます難しくなるだろう。

内戦に陥った場合、トルコがクルド人問題を解決する手段は戦争による住民交換、最悪は民族浄化(エスニック・クレンジング)となる。20世紀最初のジェノサイドとして非難され続けるアルメニア人虐殺再び、となるか。

Syria Kurds 'razing villages seized from IS' - Amnesty 13 October 2015 BBC NEWS

しかしながら、アムネスティの発表によると、シリアのクルド人政党PYDと戦闘部隊のYPGは占領した領域に居住するクルド人以外の民族・宗派の人々を強制的に追い出している、という。これが事実ならば戦争犯罪にほかならない。シリアのクルド人は自治権獲得後の領域内の不安要素を排除するため、文字通り異なる民族の排除に乗り出している。

つまりは過去の戦争で見られてきた解決法にほかならず、国なき民として迫害の対象だったクルド人も同じ轍を踏もうとしている。

As their power grows, Iraq’s Kurds are fighting among themselves  October 12 at 4:18 PM The Washington Post

さらにイラクのクルディスタン地域では、クルディスタン民族議会を構成する政党同士、クルディスタン民主党(KDP)とゴラン党(Gorran)の間で騒擾が起き、KDPの党事務所が焼き討ちされるなどの混乱が生じている。

背景にはイラクのシーア派政権との政治的分断による経済的な行き詰まりがあり、パイプラインを通じたトルコへの原油輸出だけでは財政が賄えない状態になりつつある。加えて今後、PKKとトルコの関係悪化がトルコとクルディスタン地域政府との関係にもひびを入れるかもしれない。

中東のヘゲモンとして君臨するプーチン大統領

ロシアがシリア内戦への軍事介入を始めたことが契機となって、急激なパラダイム・シフトがアラブ・中東地域に起こっている。

中東の覇権を握る覇者(ヘゲモン)が、合衆国からロシア連邦に替わろうとしているのだ。このパラダイム・シフトが引き起こす外交的震動は、我が国にとって“対中封じ込め”の巨大なダイナモを回す力に変える好機ともなっている。

プーチン大統領はサウジアラビア国防相と会談した。トルコはアンカラのテロによって、内政に縛られ、能動的な動きが取れなくなり、ロシアとイランとの協議に前向きになっている。

Russia sees progress with U.S., Saudi on Syria Monday, 12 October 2015 Al Arabiya News

Putin and Saudi defense minister meet in Russia, agree on common goals in Syria Published time: 11 Oct, 2015 23:08 RT

外交と軍事両面で中東に注力するロシアは、東シナ海~南シナ海~太平洋~インド洋での日米印豪VS中韓の争いに力を割けない。

米軍は、ロシア軍に中東の覇権を暗黙裡に委ねることで“ピボット”もしくは“リバランス”を完遂できる。財政赤字を理由にペルシャ湾と南シナ海の二正面展開は不可能ということが大きい。しかし、すでに中共が埋め立てた南シナ海の人工島の多くが完成し、2隻目の空母建造も進んでいる中で、遅きに失した感はある。

中国の人工島12カイリ内に近く米艦船航行か 中国「侵犯を断固許さない」 2015.10.9 19:46 産経ニュース

Navy to challenge Chinese claims in South China Sea 8:11 p.m. EDT October 7, 2015 USA TODAY

Why China's Nuclear Subs Are Subpar October 7, 2015 The National Interest

China’s Self-Defeating Strategy in the South China Sea October 2, 2015 The National Interest

我が国は事実上、軍事面での中露分断を果たすことができる。中央アジア~シベリア~沿海州における投融資以上の中露協力はない、と思われる。年内のプーチン大統領訪日にこだわる必然性はないのではないか。それに国内世論を考慮すると、北方領土の四島一括返還をあくまで目指すならば、ロシアが中東地域ですり潰されていくのを見守っても良い。

米国の“ピボット”を最大限利用して、南シナ海で直接的な脅威に晒されているフィリピンとベトナムへの協力関係を深め、中共が“一帯一路”に基づいて、戦略的に経済進出している東南アジアと中央アジアの各国をミャンマーやスリランカのように、個別に切り崩していくべきだろう。

イランと日本の外相による共同声明 2015/10/12(月曜) 23:31 IRIB Japanese Radio

日イラン投資協定締結で実質合意 核問題解決へ協力 2015/10/12 22:04 【共同通信】

アメリカの空母がペルシャ湾から撤退 2015/10/09(金曜) 22:04 IRIB Japanese Radio

米国からロシアへの覇権交替劇には、シーア派の雄イランの国際社会の復帰も関わってくる。核合意後のイランは、中東地域のプレーヤーとして存在感を増す。

核合意に基づく制裁解除を見据えて、独仏や中韓などがイランとの貿易投資協定を締結してきた。遅れていた我が国は交渉開始約1ヶ月で日本-イラン投資協定などの合意を見て、両国外相が共同声明を発した。

経済制裁下で設備更新が行われてこなかったプラントなどの受注が進むだろうが、イラン産原油の輸出で原油価格の下落も同様に進み、世界経済の波乱要因のひとつになっている。

我が国にとって産油国の通貨安は、相対的な円高を促進する材料になる。かつてのプラザ合意(1985年9月)の翌年、1986年の年初から7月頃までの原油価格の下落が円高を昂進させた。新興国の代表格である中国経済の失速も伴って、年度内の質的量的緩和の追加と補正予算は必須だろう。

NATOの即応部隊はロシアと対峙できるか

NATOはトルコ-シリア国境に即応部隊を派遣する可能性が高まっている、と発表した。この即応部隊はウクライナ危機に対応して発足した。

米国のカーター国防長官は、ロシア軍のトルコ領空侵犯を非難し、第二戦線が国境線に沿って出現した、と発言した。対するロシア当局は領空侵犯は意図的なものではなかった、と主張する。

NATO ready to send troops to Turkey-Syrian border as risk of conflict with Russia grows Thursday, Oct. 08, 2015 6:31AM EDT The Globe and Mail

領空侵犯を受けたトルコのエルドアン大統領は、ロシアから黒海を経由してトルコに至る、天然ガスパイプライン「ターキッシュ・ストリーム」の白紙撤回を仄めかしている。

大トルコ主義とイスラム原理主義に傾斜しているエルドアン大統領の思惑を図ってみよう。

原理主義的傾向に従えば、ISIS(イスラム国)の存在を一定の勢力規模であれば黙認すると思われる。大トルコ主義的傾向に従えば、トルコ~シリア~イラク~イランに分布するクルド人の回廊を通り、テュルク系国家へ入ることを望んでいる。以前から、イラクのクルド自治政府との関係は良好であったが、クルド労働者党(PKK)との関係悪化もあり、ISISを中央アジアに達する際の牽制役に用いたいのかもしれない。

さて、アナトリア半島のみで落ち着いている現在のトルコは、地政学的に最大の敵であったロシアとも関係は安定している。

大トルコ主義の最大の欠点は、ムスリムのテュルク系民族の途上にキリスト教国のアルメニアが存在していること、加えてコーカサス山脈の南側にあるアゼルバイジャンを踏破しても、さらに世界最大の内海であるカスピ海が立ちはだかり、中央アジアの諸国・トルクメニスタン、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスとの交通を妨げられやすいことにある。

トルコはロシアとの利害関係を調整してきたが、アルメニアの潜在的な敵対意識を制御することまで、ロシア外交に可能なのかまでは不明である。また、ISISへの融和的姿勢はロシアとの潜在的な利害対立を生む。チェチェン人並びに北コーカサスの反ロシア勢力がISISに参画していると思われるからだ。

そして、NATOの即応部隊はウクライナ危機に備えて発足しながら、ウクライナを助けてはいない。

2012年の6月にシリア軍機(アサド政権)がトルコ軍機を撃墜した際に、NATOは復仇の原則に従い集団的自衛権を行使することもできたが、それをしなかった。NATOは安保理決議を軍事介入の要件としていた。

今回、ロシアの反対にあうことが予想され、間違いなく安保理決議は通らない。NATOはそれでもロシアと対峙するのであろうか。

NATO強硬派のトルコを牽制するロシア

シリア内戦で空爆を行っているロシア軍機がトルコ領空を侵犯した。NATO事務総長が非難し、トルコのエルドアン大統領は「容認できない」と発言している。

トルコはNATO加盟国のなかで唯一、シリア国内の飛行禁止区域の設定を求めている。また、同時にイラク北部に拠点を置くクルド労働者党(PKK)を空爆している。

対して、シリアのクルド人政党のPYDとYPG(PYDの戦闘部隊)は、ロシアの軍事介入を歓迎している。トルコがPKKの延長線上にPYDを見ている、と懸念しているからだ。彼らは、ロシアの空爆にはトルコの空爆を相殺する効果がある、と考えている。

Turkey says Russian warplane violated its air space near border with Syria OCT 5, 2015, 3:25 PM SGT The Straits Times

ロシア:トルコ領空侵犯 NATO事務総長が非難 2015年10月05日 23時07分 毎日新聞

ロシアとシリア国内のクルド人勢力の利害は一致している。ロシア軍機のトルコ領空侵犯が偶然か意図的かは分からない。意図的と見ると、シリアからイラクに伸びるクルド人勢力の回廊(事実上、独立したクルディスタンとなりうる)はイランから中央アジアに接続できる。しかし、対立が過ぎると、トルコはこの回廊のアクセスを喪失するかもしれない。

これではクルドとロシアの接近によって、エルドアン大統領の企図する大トルコ主義の夢は、さらに遠ざかることになる。最悪の事態を避けるには、ロシアによる牽制の意図を汲みとって、妥協点を探る必要が出てくるだろう。

シリア内戦の“毒を以て毒を制す”

ガーディアン紙とワシントン・ポスト紙の記事から、シリア内戦へのロシアの軍事介入について、内戦にそれぞれ関与するアラブ・中東地域の各国、各勢力のスタンスを読む。そこには“毒を以て毒を制す”の考え方が見え隠れする。

Gulf states plan military response as Putin raises the stakes in Syria Sunday 4 October 2015 00.05 BST The Guardian

トルコとカタールは北部の反乱勢力、サウジアラビアは南部の反乱勢力を支援してきた。ただし、アサド政権が急速に瓦解して、シリアに権力移行期間の空白=力の真空状態が起きることを怖れて、その支援は抑制的なものだった。

これは複雑な人種・宗派構成を考えてのことだったのだろうが、ロシアの介入によってこの抑制が失われるかもしれない。

しかし、トルコはクルド労働者党(PKK)との和平が崩壊しており、支援を増やせない、と見られる。

一方、サウジアラビアとカタールはイエメン内戦への介入をすでに行っているが、支援拡大には前向きである。また、イランの核合意に不満を持つサウジアラビアにとっては、地上部隊を派遣し始めたイランが少なからず打撃を受けることを歓迎する意図が見え隠れする。

Russia’s military is unlikely to turn the tide in Syria’s war October 3 2015 The Washington Post

シリアのクルド人政党のPYDとYPG(PYDの戦闘部隊)は、ロシアの軍事介入を歓迎している。トルコがPKKの延長線上にPYDを見ている、と懸念しているからだ。彼らは、ロシアの空爆にはトルコの空爆を相殺する効果がある、と考えている。

Top Syrian Kurdish leader seems to back Russian airstrikes  October 2 2015 The Washington Post

ロシアの立場はどうか。現時点でプーチン大統領は地上部隊を派遣しない、と発言している。ロシアはシリア全土を到底、奪回できないし、航空兵力の近代化(精密誘導爆撃など)にも遅れがあるのも空爆で明らかになった。Geneva2のような和平合意プロセスを望んでいるのではないか、とモスクワの中東問題専門家、Vladimir Yevseyevは指摘する。

ヒズボラ去りて、イラン来たる

シリア内戦のエスカレーションが続いている。ロシアの空爆開始に加えて、アサド政権側に立って、イランが地上部隊を派遣する。アサド政権(アラウィー派)とレバノンから参戦していたヒズボラの疲弊に伴って、シーア派の雄による軍事介入が始まる。

ヒズボラは引き続き参戦する、とロイター電にある。しかし、シリア難民の大量流入によって、レバノンの宗派別人口構成に大きな変動が起きており、ヒズボラは勢力回復のために最前線から撤退し、レバノンに帰還するとも考えられる。

シリアのドルーズ派はアサド政権から離反しており、これがレバノンのドルーズ派にも影響を与える可能性がある。現在のレバノンの連立内閣は統治能力を失いつつあり、つい最近、住民サービスのゴミ収集が滞り、暴動が起きていた。

サウジアラビアを盟主とするスンニ派とイランを盟主とするシーア派の代理戦争に直接、イランが介入し始めたことで、シリア内戦の性格が変わった。サウジアラビアはイエメン内戦への介入を深めている最中であり、この機会を捉えてシーア派はシリアにおける失地回復を図ると思われる。

つまり、イエメン内戦の戦況とシリア内戦の戦況は連動していくことになる。

Russia 'fuelling extremism' as Putin steps up Syria air strikes 10:23PM BST 02 Oct 2015 The Telegraph

ロシアのシリア空爆、3─4カ月続く見通し=下院国際問題委員長 2015年 10月 2日 17:29 JST ロイター

有志連合とトルコ、シリア反体制派への空爆中止をロシアに要請 2015年 10月 2日 16:52 JST ロイター

イラン部隊、地上戦に向けシリア入り アサド政権支援=関係筋  2015年 10月 2日 15:03 JST ロイター

[ベイルート/モスクワ 1日 ロイター] - レバノンの関係筋は1日、イランの軍部隊がアサド政権を支援するため、シリア入りしたと明らかにした。大規模な地上戦に参加するのが目的とみられる。

2人の関係筋によると、過去10日の間に数百人規模のイラン部隊が地上戦に向けてシリアに入国したという。戦闘にはレバノンのシーア派組織「ヒズボラ」やイラクの同派民兵も参加するほか、ロシアも空爆で支援する方針だという。

イランによるアサド政権への軍事支援はこれまで、主に軍事顧問の派遣という形で行われてきた。

一方、ロシアは同日、シリアで2日目となる空爆を実施。反体制派によると、米中央情報局(CIA)が訓練を行う同派のキャンプを爆撃したという。これに対し、ロシアは空爆の標的が過激派組織「イスラム国」の拠点だと主張している。

誰もがISISの撲滅を望んでいない

議会の承認を受けて、ロシア軍機がシリアで空爆を開始した。国籍マークを塗りつぶしている点では、クリミア半島を事実上併合したときに展開していた兵士たちが、インシグニアを隠していたのと同じやり方を踏襲している。

ちなみに爆撃しているのは、アル=ヌスラ戦線が掌握しているイドリブ県や、アサド政権と攻防戦が続くホムスなどであって、ISIS(イスラム国)とは何ら関係ない。

つまり、トルコがイラク北部に拠点を置く、クルド労働者党(PKK)を攻撃した手法と同じで欧米に対する手前、ISISを名目にするか、申し訳程度に攻撃して、いかにも欧米と協調しています、というアリバイを作っているにすぎない。

議長国ロシアが安保理で決議案配布、「関係国=アサド政権」解釈めぐり対立 2015.10.1 17:54 産経ニュース

爆撃後にアサド政権の要請を受けていると発表しているが、欧米とアラブ連盟の多くはアサド政権にもはや統治の正統性を認めていない。ロシア政府は、アサド政権の存続もしくはアラウィー派による世俗主義政権の存続を目論んでいる、と思われる。

さて、各勢力の思惑と現状はどうだろう。

アラブ連盟は、アサド政権の退陣を望んでいるが、サウジアラビアを主体とした各国の軍はイエメン内戦に介入するので手一杯、しかもイラクは分裂したまま、未だイランの軍隊と革命防衛隊がほぼ無傷で残っている。

トルコは、クルド系の国民民主主義党(HDP)が台頭するのを怖れ、再選挙を前にPKKへの攻撃を続けていて、ウイグルの動向などを睨みながら、中央アジアへの利権確保の野望を捨てていない。

欧州連合(EU)は、難民危機と欧州債務危機に加えて、輸出先の新興国の景気後退が始まり、フォルクスワーゲンの不正で経済の屋台骨である自動車産業が弱ろうとしているところに、ウクライナとシリアの両面でロシアの勢力と対峙しなければならない。

米国は、“世界の警察官”を辞めるとオバマ大統領が宣言して以降、NATOの軍事作戦を主導していない。何よりアサド政権が化学兵器を使用した、と思われる際に介入の機会を失ったのが大きい。

どうやら、アラブ・中東地域のすべてのプレイヤーがISIS(イスラム国)の撲滅を望んでいるとは到底思えない。それは、ISISの支配領域がシリアからイラクにかけて、緩衝地帯のように伸びて存在していることで少なからず証明できる。

同じくシリアからイラクに跨るクルド人の立場にしても、敵手たるISISがイラクのシーア派政権から、シリアのアサド政権とその他のイスラム原理主義勢力から遠ざけてくれているのは間違いない。

何より英米仏も数回の空爆を行っているが、ISIS支配領域を飛行禁止区域にするなどしていない。陰謀論以前に、ISISは利害関係の輻輳するシリアからイラクにおいて、敵対勢力引き離しの緩衝地帯としての役割を果たしているのではないか。とすると、非人道性の背比べをしているようで、なんとも惨たらしい話ではないか。

フランスが作り、サウジが買い、エジプトが使う

ロシア向けに建造されたミストラル級強襲揚陸艦2隻(「ウラジオストク」「セヴァストポリ」)の引き渡しが、ウクライナ危機でキャンセルされて、さまよえる船になっていた。この2隻をエジプトがサウジアラビアから9億5000万ユーロ(約1280億円)の支援を受ける形で購入する。

仏の揚陸艦2隻、エジプトが購入へ ロシアへの売却取り消しで 2015年09月24日 09:28 AFP BB NEWS

売却額と同額の違約金をロシア側は受け取る。また、ミストラル級の半分はロシアで建造されてブロック工法の技術移転も行われている。ロシアは独自に電子機器の艤装を行っており、これらを取り外したのち、エジプトに引き渡される。2016年以降には新型の揚陸艦プリボイ級の建造計画があり、取得されたブロック工法と、取り外された電子機器はこちらに流用される、と思われる。

ロシア、ミストラルに代わる揚陸艦、建造計画立つ 2015年06月17日 14:00 スプートニクニュース

エジプトはサウジアラビアのカネで2隻を購入した。ということは現在行われているイエメン内戦への介入など、アラブ・中東地域の紛争での共同作戦に使用される、と思われる。スンニ派とシーア派の対立が今後も続けば、その投射能力はペルシャ湾でも活躍することになるだろう。
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