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2015年の「Fortress Around Your Heart」

丁度、出始めの頃のCDの音圧や値段に一端の文句を垂れていた、ジャズやソウルのエッセンスが入ったレコードを選ぶようになった1985年。

その年のトップ3を上げるとしたら、スタイル・カウンシルの『アワ・フェイバリット・ショップ』と、シンプリー・レッドの『ピクチャー・ブック』と、スティングの『ブルー・タートルの夢』だった、と思う。

スタイル・カウンシルの曲「シャウト・トゥ・ザ・トップ!」のPVはサッチャリズムと炭鉱ストを扱っていたし、シンプリー・レッドの「マネーズ・トゥ・タイト」の歌詞にはレーガノミクスという単語があったし、スティングの「ラシアンズ」は東西冷戦そのものズバリ指していた。

音楽と政治の関係性すら気にも留めず、オシャレなアクセサリー程度にしか思えなかったが、そのまま大人になっていたらと、そら怖ろしい気分になる。

さて、そんなことすら四半世紀も前のことで、街中にレコード屋さんというものがあって、顔馴染みになっていた初老の店主が、しばらく僕が怪我をして店に来なかったのを心配して、兄伝いに、スティングのアルバム『ナッシング・ライク・ザ・サン』(1987年)をくれたことがあったのを想い出す。もちろんそのレコード屋さんは今はない。

何故か『ナッシング・ライク・ザ・サン』は兄のお気に入りになってしまって、もっぱら『ブルー・タートルの夢』と『ブリング・オン・ザ・ナイト』(1986年)を聴いていた。

『ブルー・タートルの夢』の最後に収められている「フォートレス・アラウンド・ユア・ハート(Fortress Around Your Heart)」は、ベルリンの壁の暗喩かな、彼の意中の人の心が難攻不落なのかな、とか当時思っていた。

当時の結論だったら、心の壁なんか100%無いほうが良いよね、なんて軽口叩くのだろうが、今になってみると、政治的も心理的にも壁はなくならないことに気付かされる。

(「フォートレス・アラウンド・ユア・ハート」歌詞・意訳)

Under the ruins of a walled city
滅び去った城壁と街がある
Crumbling towers and beams of yellow light
崩れ去った塔に黄昏の光彩が貫く
No flags of truce, no cries of pity
掲げる白旗も、哀れな叫びもなく
The siege guns had been pounding all through the night
城壁を打ち破る砲撃が夜通しつづく
It took a day to build the city
街を打ち建てるのに一日と要らない
We walked through it’s streets in the afternoon
ふたりは昼下がりの通りを歩く
As I returned across the field’s I’d known
見覚えのある野原を通りすぎて気づく
I recognized the walls that I once made
ああ城壁は僕が造り上げたものだ
I had to stop in my tracks for fear
足が竦んで歩みを止めた
Of walking on the mines I’d laid
僕が埋めた地雷を踏みしめないかと


And if I built this fortress around your heart
そうだ僕が君のこころの周りに砦を築いた
Encircled you in trenches and barbed wire
塹壕と鉄条網で君を取り囲んでしまった
Then let me build a bridge
どうか橋頭堡を架けさせておくれ
For I cannot fill the chasm
深い淵を埋めることが出来ないんだ
And let me set the battlements on fire
僕を撃ち抜こうとする胸壁を焼いてくれ

Then I went off to fight some battle
それから幾度かの戦いに赴いたが
That I’d invented inside my head
それは僕の頭の中ででっち上げられていた
Away so long for years and years
遠く長く幾年月もの間
You probably thought or even wished that I was dead
僕が死んだとおそらく君が思い願ったように
While the armies are all sleeping
その軍隊は皆が眠りこけている間
Beneath the tattered flag we’d made
破れた旗の下に我らが作り出したものだ
I had to stop in my track for fear
足が竦んで歩みを止めた
Of walking on the mines I’d laid
僕が埋めた地雷を踏みしめないかと

※繰り返し

This prison has now become your home
今やこの檻が君の住まいになった
A sentence you seem prepared to pay
刑罰を受ける心構えはできているようだ
It took a day to build the city
街を打ち建てるのに一日と要らない
We walked through it’s streets in the afternoon
ふたりは昼下がりの通りを歩く
As I returned across the field’s I’d known
見覚えのある野原を通りすぎて気づく
I recognized the walls that I once made
ああ城壁は僕が造り上げたものだ
I had to stop in my tracks for fear
足が竦んで歩みを止めた
Of walking on the mines I’d laid
僕が埋めた地雷を踏みしめないかと

※繰り返し

Map: Europe is building more fences to keep people out October 28 2015 The Washington Post

1989年にはベルリンの壁はなくなったけれど、そのきっかけをつくったハンガリーが主導して、再び欧州連合のあちらこちらに不法移民を防ぐ壁が出来始めている。

ハンガリーの近隣国ではオーストリアとスロベニアが、英仏海峡トンネルのある港町カレーでも、スペインのアフリカにある飛び地セウタとメリリャでも、バルト三国のエストニアやウクライナとロシアの国境にも作られる予定だと云う。

欧州が城塞に取り囲まれた国家群に変わろうとしているのを聞くと、相互確証破壊の恐怖の均衡と、経済と情報の隔絶をもたらすベルリンの壁があることで、むしろ音楽と政治の関係性をアクセサリー以上に考えなくても済んだ四半世紀前が、無知であるがゆえの無垢な、それでいて幸せな時代のように思えてくる。
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サブサハラに対する“信頼の供与”

下記のフィナンシャル・タイムズによれば、中国共産党は2000年から2013年の間に、アフリカに950億ドル近くの開発援助を投じたが、彼らから信頼を勝ち取れていない、として「北京コンセンサス」と呼ばれる、こうしたアプローチの効果に疑問が生じていると、指摘している。

China’s aid splurge fails to bridge credibility gap in Africa October 28, 2015 7:08 pm FT

マグレブからサブサハラにかけて進出した中共は、年間2000億ドルに及ぶ貿易量の拡大に伴って、影響力も拡大させてきた。しかし、中共の対ブラックアフリカ(サブサハラ)への直接投資は、今年の上半期で前年同期比84%減と急落してきた。今まさにその転換点に差し掛かっているところに、我が国や米国、そしてインドがブラックアフリカへの働きかけを強めている。

2014年8月、オバマ大統領は米アフリカ首脳会議の席上、官民併せて330億ドル(約3兆4000億円)の投資を行なうと表明した。

我が国が2013年6月、TICAD V(第5回アフリカ開発会議)で表明した5年間の官民併せた支援額3兆2000億円とほぼ同額になる。

また中共が2014年5月、アフリカ4ヶ国歴訪で表明した従来の支援額200億ドルに追加分120億ドルを併せた額とも、米国はイコールフッティングさせてきた。

この競争にインドが加わる訳だ。主に貿易量の拡大を目指す「メーク・イン・インディア」と連携させたい思惑があるようだが、さて中共とインドのどちらがより信頼を獲得できるのだろうか。

インド、アフリカ首脳会議を主催へ 中国の影響力に対抗 2015年 10月 26日 19:24 JST ロイター

[ニューデリー 26日 ロイター] - インドは今週29日、同国で過去最大規模のアフリカ首脳会議を主催する。豊富な天然資源と世界最速の人口増ペースを誇るアフリカ大陸では中国が大きな影響力をもつが、インドのモディ首相は巻き返しを図りたい考えだ。

インド・アフリカ会議はこれが3回目となり、初回が開かれた2008年以降、両地域の年間貿易額は2倍以上に増え、720億ドルに達した。今年招待した54カ国のうち、40カ国以上は国家元首が出席するとみられている。

これに対し、中国とアフリカの貿易額は2000億ドルに急拡大した。「メーク・イン・インディア(インドでものづくりを)」を掲げ、輸出を推進するモディ首相は、中国の景気減速に乗じて貿易や投資のパートナーとしてインドが台頭することを狙い、原油や石炭の大型案件への投資を計画している。

また、インドとアフリカの貿易担当相は来月ナイロビで開催される世界貿易機関(WTO)の閣僚会議で共通の利害を主張する方針であることを、インドのシタラマン商工相が明らかにした。

相互信用が失われた社会の末路

中国共産党の支配する国有企業の動きは盛んだが、民間企業と支那本土に投資する外資の動きは鈍い。そして、バブルは不動産市場が破裂して、株式市場も破裂して、債券市場に逃げ込んでいる。

High leverage shifts to China's bond market after equities deflate Tue Oct 27, 2015 5:03pm EDT Reuters

ハイレバレッジを掛けて、すぐにでも投融資を回収しなければならない理由を思い浮かべてみよう。

起業家が、今まで培ったキャリアや、そこで掴んだ新しいイノベーションを頼りに投融資を受けて、事業を起こす。その後、給与を支払い、利息を支払い、税を支払い、配当を支払い、最終利益を確定しながら、徐々に企業が大きくなる。

こうした好循環が起きないのは、国内市場で官僚と企業と人民の間の相互信用が失われている、という根深い問題が横たわっているのではないか。

米ヤム・ブランズ、中国の未熟なフランチャイズ市場が成長の壁に 2015年 10月 26日 19:15 JST ロイター

米国のヤム・ブランズ社は「ケンタッキー・フライド・チキン」「ピザハット」「タコベル」のブランドを展開するファストフードチェーンの大手企業である。

しかし、フランチャイザーの出すマニュアル通りに動かない蓋然性の高さ、マクドナルドがゾンビ肉で被害を受けたような食材の安全性への懸念、毒餃子事件に見られるようなサプライチェーンの過程で毒物が混入される危険性すらあり、信頼に足る合弁パートナーに巡り会える可能性の低さから、直営店主体の経営を迫られ、国内6900店舗のうち、フランチャイズ店は7%に留まっていて、解決策として、地域のサブフランチャイジーになる香港や台湾の企業を合弁相手として探そうとしている。

What does BAT’s hiring freeze really mean to the entire internet industry? Sunday, 25 October, 2015, 2:36pm South China Morning Post

仕舞いには、支那人が運営する店舗での相対取引が信用出来ないと考える支那人は、電子取引に急速にシフトした。Alibaba Group傘下のtaobaoなどが急成長する理由にもなった。しかも、電子取引の宅配便を装ったテロが起きている。これは、我が国のドラッグストアくんだりまで来て、乳児用オムツを買い占める理由でもある。

この流れを受けてかは知らないが、Alibabaを始めとするBaidu、Tencentは新規雇用を停止して、将来的な緊縮に備えているように思われる。Alibabaは4月に停止、Baiduは10月中に停止、Tencentも停止した、と云われている。

こうした民間企業の動きと比べると、中国共産党と国有企業のビッグビジネスが目立つ。

訂正-UPDATE 1-中国、エアバスから130機購入へ 独中首相が合意 2015年 10月 29日 17:23 JST ロイター

インドネシアの高速鉄道計画、中国受注へ  2015年 09月 30日 03:16 JST ロイター

ボーイング、中国から380億ドル相当の受注獲得 2015年 09月 24日 08:38 JST ロイター

中国が米ボーイングにジェット機300機発注、施設建設も合意-新華社 2015/09/23 17:18 JST ブルームバーグ

ベガスとロス結ぶ高速鉄道、米中合弁で建設計画 2015年09月18日 09時14分 読売新聞

米加州の高速鉄道受注競争、中国勢優勢か 資金調達力に強み 2015年 05月 21日 17:58 JST ロイター

このビッグビジネスの背景には、TPPに参画できないほど、ルールを守れない国家と人民の信用の無さがある。下記の記事によれば、中国人民銀行の研究者の予測では、香港資本の工場はベトナムやブルネイに逃避するのではないか、と。であれば、台湾資本も同様の動きを取るだろう。

The biggest losers: Beijing and Hong Kong economy to suffer from Washington-led free-trade deal  Friday, 09 October, 2015, 11:51pm South China Morning Post

米中の間に政治的猛毒が沈殿する

USSラッセンは「航行の自由作戦」に基いて、南沙諸島(スプラトリー諸島)のスビ礁の12海里内を通過した。スビ礁は満潮時に海に没する低潮高地であり、国際海洋法に従えば、人為的に埋め立てして、自国民を居住させても、領土にはならず、領海も領空もEEZも主張できない。この作戦は継続されると考えられる。米中の命懸けのチキンレースが始まった。

国際関係も過度な緊張状態を続けていくと、不健康な自家中毒症を起こす。紛争を引き起こしている問題を取り除くために、外交交渉があり、最終的な手段として(国家間の外科手術として)戦争が存在する。

例えば、シリア内戦にロシアが軍事介入したことで、アラブ・中東から中東欧の政治的状況が激変したように、消極的な意味で軍事力行使は万能薬となる。

さて、国内外に容易に解決できない矛盾を抱えているなかで米中のどちらが、より深刻な状態にあるか。チキンレースを続ける中で、沈殿する政治的猛毒に耐えられなくなるのはどちらか。

After Months of Waiting, US Finally Begins Freedom of Navigation Patrols Near China's Man-Made Islands October 27, 2015 The Diplomat

White House Moves to Reassure Allies With South China Sea Patrol, but Quietly OCT. 27, 2015 The New York Times

Beijing summons US ambassador over warship in South China Sea Tuesday 27 October 2015 15.38 GMT The Guardian

Ties with EU can offset US-Japan alliance 08:44, October 27, 2015 People's Daily Online

Angry China says shadowed U.S. warship near man-made islands in disputed sea Tue Oct 27, 2015 2:45am EDT Reuters

南シナ海の米艦を監視・追跡した=中国外務省 2015年 10月 27日 15:22 JST ロイター

南シナ海の中国「領海」内に米艦派遣、王外相は自制求める 2015年 10月 27日 12:39 JST ロイター

中国が米国を強く批判、南シナ海人工島への米駆逐艦派遣で  2015年 10月 27日 10:31 JST ロイター

2015年8月6日のエントリーで触れたように、

IMFのスタッフが人民元のSDR採用の可否のために調査入りしたのが今年の6月で、その報告書がまとまった。

最終的には理事会の判断に委ねられるとしながら、2016年9月末までは現状維持、つまり人民元をSDRに組み入れることを延期するように提言した。

ところがIMF理事会の判断であろうか、人民元のSDR採用の方向性が急遽固まった。悲願の人民元のSDR入りをちらつかせながら、南沙諸島(スプラトリー諸島)の軍事的緊張が高まる。

もしも「航行の自由作戦」のさなか、一撃でも両国が干戈を交えたら、米国は金融制裁を課すだろう。中国共産党とその関係者の米国資産の凍結、米国債の没収などのオプションがあり得る。

人民元のSDR入りを諦めるか、南沙諸島(スプラトリー諸島)を諦めるか。両方を諦めないまま進めても構わないが、いずれにせよ国外への資本流出は止められるとも思えない。徐々に政治上の選択肢が狭まる中で、国内矛盾は深刻になる。つまり、米中のチキンレースは習国家主席と中国共産党にとって、著しく不利に思われる。

アングル:人民元、SDR採用なら5000億ドルの外貨準備需要か 2015年 10月 27日 15:10 JST ロイター

IMF、中国人民元のSDR採用方向で準備=関係筋  2015年 10月 26日 08:04 JST ロイター

IMFスタッフ報告、人民元のSDR採用先送りを提言 2015年 08月 5日 12:33 JST ロイター

21世紀の小協商“プチ・アンタンテ”

戦間期(1919年~1939年)のフランス第三共和政は、ワイマール共和国の復讐とオーストリア=ハンガリー帝国の復辟を怖れて、新たに独立したポーランド、チェコスロバキア、ユーゴスラビアなどと小協商“プチ・アンタンテ”と呼ばれる対独包囲網を形成した。

もともとセダンの戦いで敗れた第二帝政が呆気無く倒れ、血みどろのパリ・コミューンを鎮圧して成立したフランス第三共和政は、深刻かつ幅広い左右対立のなかで、内政の安定しない政体だった。

王朝復辟を主張する者は、それぞれブルボン家(レジティミスト)を、オルレアン家(オルレアニスト)を、ボナパルト家(ボナパルティスト)を推す勢力に分かれ、農村に地盤を持つカソリック教会と、都市に地盤を持つ資本家、何より軍部が保守勢力として存在し、左翼は社会民主主義からマルキスト、ラジカリスト、インターナショナリストに分かれていた。

相対的に安定したのは、ブーランジェ事件とドレフュス事件で軍部のクーデターの危険性が遠のいたためであった。第三共和政(1871年~1940年)は述べ110人の首相によって内閣を組織されたが、戦間期(1919年~1939年)は33もの内閣が入れ替わる始末だった。

賠償金支払いをめぐってルール地方を占領して、ドイツのハイパーインフレを起こす原因を作り、ナチスが政権を獲ってからはラインラント進駐、オーストリア併合(アンシュルス)を防げず、ズデーテンラント割譲要求に屈し、ポーランドを見殺しにし、小協商を自ら壊してしまう有様だった。そして、機甲師団にアルデンヌの森を突破されて、第三共和政は滅びた。

かつてのフランス第三共和政の左右両翼の乱立に比べれば、現在のポーランド(第三共和国)の二大政党は、中道から中道右派と保守を主張して、むしろ安定している。

今回、政権を明け渡すことになった「市民プラットフォーム」は、旧ドイツ帝国~ワイマール共和国領に地盤がある。一方、政権を取り返した「法と正義」は、戦間期のポーランド第二共和国領に地盤がある。

興味深いのは、欧州債務危機から難民危機を経て、ドットモダン(. Modern)という極左政党と、Paweł Kukizというミュージシャン個人が立ち上げたポピュリスト政党が、既存のリベラルと中道左派政党を喰った形で台頭している点だろう。

欧州連合によって独仏が半ば一体化している現代、21世紀の小協商“プチ・アンタンテ”は、バルト海に面したポーランドからアドリア海に面したスロベニアまで拡がるかもしれない。

2015年 ポーランド下院総選挙結果(定数:460 過半数:231)
法と正義(中道右派~保守) 235
市民プラットフォーム(中道~中道右派) 138
Kukiz'15(ポピュリズム~右翼) 42
. Modern(リベラル~極左) 28
ポーランド農民党(中道右派) 16
ドイツ少数民族党(中道) 1

2015年 ポーランド上院総選挙結果(定数:100 過半数:51)
法と正義(中道右派~保守) 61
市民プラットフォーム(中道~中道右派) 34
ポーランド農民党(中道右派) 1

※ポーランドでは上下両院が同時に総選挙を行う。

アングル:ポーランド右傾化で高まるEUとの対立懸念 2015年 10月 27日 16:17 JST ロイター

[ブリュッセル 26日 ロイター] - ポーランドで25日に実施された総選挙で、欧州連合(EU)に懐疑的な姿勢を示し、難民受け入れに反対する保守系野党「法と正義(PiS)」が圧勝し8年ぶりに政権交代する見通しとなったことを受け、EU指導部に懸念が広がっている。

ポーランドは2004年にEUに加盟したが、法と正義が2005─07年に政権を担っていた当時、ポーランドがリスボン条約に反対し批准を遅らせたことや、域内での議決権拡大を要求したことなどをEUは忘れていない。

EU当局者は「状況は一段と厳しくなるだろう」と指摘した。

欧州では多くの国で反移民感情の高まりを背景に、極右のポピュリスト(大衆迎合的)政党への支持が急拡大しており、難民の大量流入が続いた場合、他の国でも政権交代につながる恐れがある。

法と正義のカチンスキ党首は、穏やかな口調のシドゥウォ副党首を首相に指名したが、権力を維持してEUに戦いを挑む見通しだ。

焦点となる難民問題だけでなく、ユーロや財政政策、中央銀行の独立性、気候変動、エネルギー政策、人権などの問題でもポーランドとEUは対立する可能性がある。

EU当局者によると、ポーランド新政権は、同国とチェコ、スロバキア、ハンガリーの4カ国(ビシェグラード4カ国)にルーマニア、ブルガリアを加えて中東欧諸国を総動員し、欧州委員会が計画する難民受け入れ枠の義務化に反対する可能性もあるという。

<ハンガリー首相の政策がモデルか>

法と正義は、今後4年間にユーロを導入することはないとの立場で、銀行やスーパーマーケットチェーンへの新税導入によって社会的支出の拡大を賄う方針を表明している。これはハンガリーのオルバン首相が取った措置に似ている。

EU当局者は、カチンスキ党首が中銀や司法機関、その他の政府機関に支持者を送り込み、オルバン首相の政策モデル「非自由主義的民主主義」を模倣するため、憲法改正を目指す可能性があると指摘する。

ポーランドの政権交代はまた、英国が目指すEUとの関係見直しにも影響しそうだ。新政権は、英国に住む70万人以上のポーランド人が英国人と同等の扱いを受けられるよう権利の擁護に動くとみられる。

キャメロン英首相は移民の福祉手当などを4年間給付しない措置の導入を目指している。

またポーランドは、英国がEUとの関係で例外を認められた場合、それに便乗しようとする可能性があり、交渉を複雑にして、統合深化に向けた取り組みが一段と逆行するリスクも懸念されている。

(Paul Taylor記者 翻訳:佐藤久仁子 編集:加藤京子)

日中両国がロシアの脇腹を食い破る

旧ソ連から独立した中央アジア5カ国と外交関係を樹立して約四半世紀が経った。また、小泉政権期の川口外相により、「中央アジア+日本」対話、という枠組みが作られてから、10周年を記念して同地を舞台にした漫画『乙嫁語り』の作者、森薫女史の手になるイメージキャラクターが生み出された。

今回のモンゴル~中央アジア5カ国歴訪に向かう安倍首相夫妻が乗り込む、政府専用機の搭乗口の横には、このキャラクターが描かれていた。

当時の風俗が丁寧に描かれている『乙嫁語り』の時代とその舞台は、大英帝国とロシア帝国のグレートゲームの狭間で飲み込まれようとする時代のトルキスタンにほかならない。

物語の狂言回しを担う、朴訥そうな英国人探検家スミスは、当時の緩衝国ペルシアからオスマン帝国に向かう途上、英露の対立に巻き込まれぬように、と手紙で忠告を受けたりするし、ロシアとの関係悪化を嫌うペルシアの官憲に捕まったりもする。

森薫、中央アジア+日本外交10周年キャラを 2014年7月7日 14:15 コミックナタリー

安倍首相、中央アジア歴訪 「日本の果たす役割ある」「トップセールスで関係を飛躍的に強化したい」 2015.10.22 10:39 産経ニュース

中央アジアで日本巻き返し 首相5カ国訪問 2015/10/22 18:00 日経

かつて、グレートゲームの英国側代理人として満州で戦った我が国が中央アジア5カ国を歴訪するに当たって、元駐日ロシア大使が、米国側代理人として乗り込んで来たのではないか、と訝しんでいるコラムは、そのロシア的な言い回しとともに、なかなか趣深い。

“自由と繁栄の弧”はロシアの柔らかな脇腹である中央アジアと、ロシアに対する欧州の外郭部のヴィジェグラート4カ国(V4)を重視している。

拡大されたNATOの内側にあるV4はともかく、中央アジアはロシアの金城湯池である。我が国がこの遠隔地に派兵するなど思いもよらない。本来、ロシアとの合意により利権は保持されるのが望ましい。そもそもウクライナ危機の発生まで、ロシアとの信頼醸成を進めていたのはこれも理由のひとつだ。

現状、我が国の“自由と繁栄の弧”と、中共の“一帯一路”と、ロシアの“ユーラシア経済連合”の3つの戦略がぶつかり合っている。中央アジアにおける安全保障はロシアが担当する、と自認しているようだが、フィナンシャル・タイムズの指摘するように、中国共産党の安全保障面での影響力は無視できなくなりつつある。新疆ウイグル自治区を通って大兵を送り込める、という好条件は中露分断の要因として燻り続けるだろう。

China’s Great Game: In Russia’s backyard October 14, 2015 7:47 pm FT

ロシア人専門家、日本が中央アジアで露中と競争するのは時期尚早 2015年10月23日 20:38 スプートニクニュース

安倍首相はモンゴル、中央アジア歴訪を開始した。このなかで安倍氏はトルクメニスタン、タジキスタン、ウズベキスタン、キルギス、カザフスタンも訪れる。日本の複数の専門家らは、安倍首相の歴訪の目的はこの地域で拡大する中国の影響を抑止することと指摘している。有名なロシア人東洋学者で元駐日ロシア大使のアレクサンドル・パノフ氏は、この地域で中国と争うというのは日本には時期尚早との見方を示し、次のように語っている。

「日本の政治が常に何らかの大きな戦略的目的を持っていると信じたいものだ。今回の安倍首相の中央アジア諸国歴訪はずいぶん前から準備されてきた。だが、その主たる目的はおそらく経済的なものだろう。なぜなら中央アジアに対し、日本の外交はシリアスな政治的立場を持ったことはかつてなく、この地域についての知識もそこで起きているプロセスについての知識も持ち合わせていなかった。ところが地域の重要性を考慮し、特に中東情勢が複雑な今、この訪問の中で地域情勢の評価について指導者らからの情報を得ようとするのだろう。特にテロの危険性が念頭に置かれていると思う。

もうひとつ、日本が中央アジアに関心を持つファクターは中国がシルクロード・プロジェクトを積極的に推し進めていることに関連している。このプロジェクトの地上部分は今まさに安倍氏が訪問しようとしている諸国の領域を通過している。安倍氏はこの地域で中国人がどれだけ立場を強化できたか、露中の協力がどこまで現実性があるのか、この目で確認しようとしている。この協力については露中はユーラシア経済共同体とシルクロードの統合プロセスの枠内で合意に達した。こうした計画の実現化で中央アジア地域の前には非常によい展望が開けてくる。このため日本も列車に乗り遅れないようにせねばならない。」

「スプートニク」:これより以前、日本は米国に強いられて中央アジアに金銭的支援を行い、事実上これで彼らの米国への忠誠心を買い集めた。今回もこの実践に立ち戻ることになるのだろうか?

パノフ氏:「15年前、日本は『自由と繁栄の弧』というキーワードを推し進めていた。これは中央アジアを含めたものだ。コメンテーターのなかには、この政策は米国にとって都合のよい政治勢力を支援することに向けられたものだろうとの見方を表していた。だが、いくら米国が日本の目の前にこうした野心的課題を掲げたところで日本人には経験も人材もロジスティックスな支援もない。この地域の政治情勢に効果的に影響を及ぼす可能性も有していない。」

「スプートニク」:日本は中央アジアへ復帰した場合、そこで中国、ロシア、上海協力機構のライバルとして振舞うのか、それともこれらの国の協力のための可能性が見つかるだろうか?

パノフ氏:「今の段階では日本はこの地域で自国の側から競争について語れるほど、そんなに強い立場を有していない。将来、日本が中央アジアの経済プロセスに参加すれば、これはただただ歓迎されるだろう。だが、日本がここでリーダーシップをとることはないのは明白だ。仮に日本が今この地域で起きている経済統合プロセスに加わりたいと思うのであれば、私はそのための可能性はあると思う。この地域では中国の万里の長城で自分を囲い込む国はない。だがすべては中央アジアの活性化に対して日本指導部がいかなる戦略課題をたてるかにかかってくる。これに関しては答えより疑問のほうが多い。今回の安倍氏の歴訪はどうやらテスト訪問のようだ。訪問がどう行われるかではなく、このあと何が続くのかを見守らねばならない。」


参考URL:
「中央アジア+日本」対話 平成27年4月7日 外務省

モンゴルにおける日中角逐続く

安倍首相のモンゴル訪問に際して、モンゴルの議会は日本とモンゴルの間の経済連携協定(日蒙EPA)の発効手続きを行っている。基本合意には幾分かの取引、発効には幾分かの取引という訳だ。

以前、モンゴルは日蒙EPAの基本合意の直後、中共との間に全面的戦略パートナーシップを宣言して、両国間のスワップ協定も締結している。両国間の貿易額は2002年の3億2400万ドルから2013年には60億ドルに拡大し、モンゴルの貿易総額の半分以上を占めている。

日蒙EPAの目的のひとつは、中共との過度な経済依存からモンゴルを引き剥がすことにある。もうひとつ面白いのが日蒙EPAの「ソースコード」の開示要求を禁じる規定がTPPの同様の規定の叩き台になっていることだろう。

日本と中共いずれにとっても、資源国モンゴルからの輸入はタバン・トルゴイ炭田とオユ・トルゴイ銅鉱山が焦点になる。我が国とモンゴルの貿易は陸路と空路となるが、中共を介さない陸路は一般的に鉄道となり、ロシアのバイカル湖のウラン・ウデからシベリア鉄道に接続する。

下記記事にある「東進鉄道」とは、タバントルゴイ炭田~モンゴル北東部のフートまでの区間、フート~中共国境のビチクト間の路線と、フート~チョイバルサン~ロシア国境エレンツェブまでの路線の新設路線と既設路線の改良部分を指す、と思われる。

コモディティ価格の長期低落傾向と5年物チンギス債の償還が2016年に始まることと併せて、デフォルト危機の怖れのあるモンゴルにおける日中角逐は来年、次の局面を迎える。

EPA早期発効を確認=鉄道・炭田開発で協力—日モンゴル首脳 2015年 10月22日 19:27JST 更新 WSJ日本版

【ウランバートル時事】安倍晋三首相は22日午後(日本時間同)、モンゴルの首都ウランバートルを訪れ、迎賓館でサイハンビレグ首相と会談した。日本とモンゴルが2月に署名した経済連携協定(EPA)について、モンゴル側は関連国内法が国会で同日に成立したと報告。日本の国会手続きは完了しているため、両首相は速やかに発効させることを確認した。

 両首相は、モンゴル国内で計画されている「東進鉄道」や炭田の開発について協力を進めることで合意し、覚書を交わした。日本企業の資本参加を促していくことでも一致した。

 また、モンゴル側は2020年の東京五輪・パラリンピックの開催準備に関し、建設労働者を派遣する用意があると表明。日本側は特別な技能を持つ人を受け入れる方針だ。

 安倍首相は北朝鮮による日本人拉致問題の解決に向け、モンゴル側の協力を要請。サイハンビレグ首相は、安倍政権の「積極的平和主義」や、国連安全保障理事会改革での日本の常任理事国入りを支持する考えを伝えた。 

[時事通信社]


TPPでIT機密の開示要求禁止…中国をけん制 2015年10月22日 03時00分 読売新聞

 環太平洋経済連携協定(TPP)で参加12か国がソフトウェアの機密情報に当たる「ソースコード」の開示を民間企業などに求めることを禁じることで一致したことが分かった。

 ソフトウェアは自動車や携帯電話、家電など身の回りの製品に組み込まれており、ソースコードはその「設計図」に当たる。ソフトを使いやすくするなどのノウハウが詰まっているが、中国が外資系企業に開示を義務づけ、各国から強い反発を招いている。TPPで開示要求を禁じることにより、中国の動きをけん制する狙いがあるとみられる。

 12か国はTPPの「電子商取引」の章で、参加国政府が量販するソフトについて、ソースコードの開示を要求するのを原則禁止した。

 経済産業省によると、ソースコードの開示要求を禁じる規定は日本とモンゴルが今年2月に署名した経済連携協定(EPA)にあるほかは、世界でもほとんど例がないという。


参考URL:
モンゴル国で1,600キロメートルにおよぶ貨物鉄道建設計画に係る業務を受注 (2013年7月4日)日本工営

インド洋から太平洋における新グレート・ゲーム

2015年6月3日のエントリーで述べたように、

金融面ではアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立構想発表、軍事面では南沙諸島(スプラトリー諸島)の岩礁埋立と滑走路建設、このふたつの挑発的行動によって、覇権国としての米国は、対中エンゲージメント政策を明確に転換してきた。

“対中封じ込め”の優先順位が上がったことで、金融と軍事における覇権争いも一挙に表面化、流動化してきた。

英国はオフショア金融を潰されてきた意趣返しをも含んで、オフショア人民元の総取りに動いている。ロシアはアラブ社会主義の友邦を潰されてきた意趣返しをも含んで、シリア内戦に介入し始めている。

つまり、世界の覇者(ヘゲモン)である米国が、挑戦者である中共に戦力を集中し始めたために、金融を巡る覇権で英国が、アラブ・中東地域を巡る覇権でロシアが、それぞれの間隙を突いている。

かつてグレート・ゲームを戦った英国とロシアはこの場合、米中のグレート・ゲームの間隙を縫って自国の利益を追求する立場にある。

India, US and Japan hold naval exercises, Chinese mouthpiece cautions New Delhi Oct 17, 2015, 07.32PM IST The Times of India

Confirmed: Japan Will Permanently Join US-India Naval Exercises October 13, 2015 The Diplomat

The New Great Game A Battle for Access and Influence in the Indo-Pacific  September 29, 2015 Foreign Affairs

「フォーリン・アフェアーズ」が名付ける、インド洋から太平洋にかけて始まる新グレートゲームの焦点は、今のところ、南シナ海の人工島である。

2015年6月14日のエントリーで述べたように、

中国共産党が南シナ海で埋立を進めている人工島に滑走路や港湾を建設して、航空機や艦船の運用を開始した時点が戦争の阻止限界点になるだろう。おそらく2016年までには運用開始できる、と予測される。

人工島の埋立が第1段階、港湾などの建設が第2段階、艦船などの運用の開始が第3段階と、次第にエスカレートしていくが、周辺各国は復仇の原則に従って、同様に岩礁の埋立や港湾の建設や民間人の移住を進める。

同じ動きを見せるのに顕著なのはベトナムで、どちらも国際法から見れば、岩礁に変わりなく、領海やEEZを主張できるわけではない。しかし、埋め立てた岩礁を拠点に南シナ海全域の作戦遂行能力と兵力の投射能力が高まることがシーレーンに対する脅威になる。

彼らが人工島の運用を開始する前に、“対中封じ込め”の包囲環を閉じておく必要がある。

安保法制の衆参両院通過、TPPの実質合意、日米印の共同演習「マラバール作戦」、観艦式における首相訓示やパフォーマンスなどはそれに当たる。つづいて安倍首相が、モンゴル~中央アジア5ヶ国に歴訪するのは、包囲環を崩そうとする動きへの牽制目的がある。

参考URL:
平成27年度自衛隊観艦式 安倍内閣総理大臣訓示 平成27年10月18日 首相官邸

“一帯一路”からブラックアフリカは外れるか

中国共産党の“一帯一路”には、陸上ルートと海上ルートが想定されている。当然、我が国の“対中封じ込め”外交は、この結節点をひとつずつ潰していくことに主眼を置く。

陸上ルートは、長安~ウルムチ~アルマトイ~ビシュケク~テヘラン~イスタンブール~モスクワ~ロッテルダムまで。海上ルートは、広東省の湛江~ジャカルタ~クアラルンプール~コルカタ~コロンボ~(グワダル)~ナイロビ~アテネ~ヴェニス(~陸路により)ロッテルダムまで、が想定されている。

China’s Great Game: Road to a new empire October 12, 2015 7:24 pm FT

習国家主席の発案には、国有企業の過剰供給力を輸出することも含まれている。英国からの問いに、鉄鋼の過剰供給力を削減した、と発言しているが、国有企業に大鉈を振るうことができているかは不明である。

“一帯一路”には、ブラックアフリカではナイロビが含まれているが、中国共産党の石油閥が続々と失脚している中、シノペックとアンゴラの石油開発を結びつけていたキーマンのひとり、Sam Paが拘束された。

Detention of networker extraordinaire Sam Pa creates shockwaves October 18, 2015 5:17 pm FT

旧ポルトガル領西アフリカのアンゴラ、ポルトガル領東アフリカのモザンビーク、ポルトガル領ギニアのギニアビサウは中共が利権に食い込み、2006年時点の原油輸入量ではアンゴラからの輸入が1位となっていた。

アンゴラ、モザンビークを中共から引き剥がすこと、これを我が国の外交目標に据えられれば、TICADを“対中封じ込め”に連動させることが出来る。

さらに、政府はアフリカ開発会議(TICAD)の開催周期を5年周期から3年周期へ、開催場所を国内のみから国内とアフリカの持ち回りへと変更して、6回目となるTICAD VIを2016年にケニアのナイロビで開催する方向で調整を開始している。

Chinese investment in Africa plunges 84%  October 21, 2015 1:38 pm FT

一方、中共の対ブラックアフリカ(サブサハラ)への直接投資は、今年の上半期で前年同期比84%減と急落してきた。国有企業の戦略的投資と過剰供給力の輸出と違って、民間企業は自国のバブル崩壊に直撃されている、と思われる。

英語圏の中道左派は日本の中道右派と近似する

カナダは下院(庶民院)総選挙の結果、中道左派の自由党が政権を担うことになった。その経済政策は大胆な財政出動を公約としている。今後3年間に渡り、年50億カナダドルの財政赤字を出してでも、インフラ整備を行う、というものだ。

次の政権に就くトルドー党首率いる自由党の財政政策は、強硬左派(Hard Left)との呼び声高い英国の労働党、コービン新党首が打ち出している政策のうち、反緊縮(量的緩和継続と財政支出拡大)という点で一致している。こうした英語圏の中道左派政党の政策一般は、我が国ではむしろ中道右派の自民党が得意とするところだ。

こうした自民党の融通無碍は、他者の目からは中道と分類されても、広く右派から左派まで取り込んでいるから、一貫性も節操がないのだ、という見方もある。

しかし、ポーランドの右派・保守に分類される政党「法と正義(PiS)」は、社会福祉予算の充実や退職年齢の引き下げなど、おおよそ英語圏では中道左派やリベラルの主張する政策を公約に掲げている。

なぜ英語圏の左派とポーランドと日本の右派の政策が類似、一致するのか。その謎は、世界価値観調査(World Values Survey)の調べる文化的地図(Cultural map)で紐解ける。

世界価値観調査の文化的地図は、縦軸に世俗的・合理的価値(Secular-rational values)と伝統的価値(Traditional values)を対比させ、横軸に生存価値(Survival values)と自己表現価値(Self-expression values)を対比させている。

縦軸の上方に向かう世俗的・合理的価値観が強いほど、以前の共産主義圏、現在の正教圏(バルト三国含む)と儒教圏やプロテスタント圏との親和性が高くなる。

横軸の左側に向かう生存価値が強いほど、共産主義の傾向が強まる。横軸の右側に向かう自己表現価値が強いほど、プロテスタント圏の北欧諸国が多くなり、スウェーデンは自己表現価値の極限に立つ。

そして、日本は世俗的・合理的価値の極限にあり、生存価値と自己表現価値の中間点に立つ。日本だけが他国の一神教的宗教性を排除したポストモダンを生きている証左である。

一方、英語圏は横軸の右側の自己表現価値に寄りつつ、プロテスタント圏よりは伝統的価値が強い。欧州のカソリック圏はすべての価値の中間点に広く分布する。

つまり、日本とカソリック圏の政党とその政策が右に寄ると、プロテスタント圏と英語圏の政党とその政策の左に近付く。自民党が中道右派ながら、中道左派的な政策を採用する理由はこれで明らかになる。

ただ一国ポストモダンの世界に生存して、世俗的・合理的価値の極限に存立する日本には、現実的な極左と極右の選択肢はない。極左に赴かんとすれば全人類の生存価値を尊重するために、空想的な平和主義に向かう。極右に赴かんとすれば全人類の自己表現価値を尊重するために、人種平等的な大アジア主義に向かう。

なぜならば、ポストモダンの先は誰も見たことのない空想の未来であり、世俗的・合理的価値の先は超世俗と超合理の神々の世界だからである。

中国懸念を切り抜けた中欧諸国、選挙やVW不正が次のリスクに  2015年 10月 15日 19:24 JST ロイター

目先の懸念は10月25日に総選挙が行われるポーランドだ。同国は欧州の優等生といわれる堅調な経済成長を続ける。欧州連合(EU)で唯一、2008─09年の世界金融危機後のリセッションを回避できた国でもある。

世論調査では一貫してポピュリストの右派政党「法と正義(PiS)」が高い支持を集めるが、同党の掲げる大胆な福祉支出や非課税所得の拡大、退職年齢の引き下げといった政策は、投資家を不安にさせている。


2015年10月 カナダ庶民院の総選挙結果(定数338・過半数170)

自由党(中道左派) 184
保守党(中道右派) 99
新民主党(社会民主主義) 44
ケベック連合(ケベック州地域政党) 10
緑の党(極左) 1

コラム:カナダ新首相の「蜜月」は短期終了か 2015年 10月 21日 17:48 JST ロイター

[FT]新首相と中道左派に託したカナダ(社説) 2015/10/21 14:23 日経

カナダ次期首相、対「イスラム国」戦からの撤退を米国に伝達 2015年 10月 21日 12:19 JST ロイター

カナダ政権交代でマリファナ市場拡大期待、関連株が一時急伸 2015年 10月 21日 10:23 JST ロイター

カナダ自由党の政権獲得、当面は加ドルとエネルギー株の重しに 2015年 10月 20日 17:46 JST ロイター

カナダで10年ぶり政権交代、野党第2党の自由党が単独過半数 2015年 10月 20日 15:53 JST ロイター

カナダ総選挙、10年ぶり政権交代へ:識者はこうみる  2015年 10月 20日 13:26 JST ロイター

参考URL:
World Values Surveyより
Inglehart–Welzel Cultural Map Cultural map - WVS wave 6 (2010-2014)

ジョンブルはオフショア人民元の総取りを狙う

習近平国家主席に米国との国賓待遇のあからさまに違う扱いを(もちろんジョンブルのことなので、分からないように莫迦に)して、オフショア人民元総取りのための総仕上げに入りつつ、安全保障では我が国との協力関係を着々と進める。そんな英国の今までの動きを過去のエントリーから振り返る。

Xi Jinping’s Seattle dinner: Japanese ingredients and cheap wine September 23, 2015 Quartz

冗長で分かりづらいことは謝るにせよ、筆者にとっても読み返すだけの価値はあった。一読されたし。

英国、中国人観光客のビザ要件緩和で「爆買い」期待 2015年 10月 21日 11:21 JST ロイター

中国主席が英議会演説、「友好関係を新たな高みに」 大型商談も 2015年 10月 21日 09:07 JST ロイター

中国人民銀がロンドンで1年物点心債売却、利回り3.1% 2015年 10月 21日 02:51 JST ロイター

英首相、中国の鉄鋼助成金めぐる問題協議へ 習主席訪英中 2015年 10月 20日 02:26 JST ロイター

中英関係は緊密、相互依存強まる=習近平国家主席 2015年 10月 21日 02:00 JST ロイター

2013年6月26日のエントリーの時点では、

米国にLIBOR操作を暴露されて、多国籍企業の租税回避とテロリストの資金洗浄防止でタックスヘイブンに足枷を嵌められたロンドン・シティー。

人のカネから利鞘を抜く自国の金融ビジネスモデルが窮地に陥り、ギリギリ持ちこたえている英国が、このモデル最後の大博打(英中通貨スワップ)に打って出た。

当然、英国は今回の英中通貨スワップ協定締結で、人民銀行、中国四大銀行と国営企業ほか、中国共産党に対して流動性を担保して突然死を防ぐ代償に、支那本土→(人民元オフショア市場のある)香港→(中国上場企業の本社の多い)ケイマン諸島→ロンドン・シティーへと、すべての資本を裏口から吸い上げようとするだろう。

2013年8月11日のエントリーの時点では、

日英情報保護協定の締結の次に、英国との外務・防衛閣僚級会合(2プラス2)の定期開催を提案しているので、安保協議の際に、2プラス2まで合意出来れば良い。

2013年9月16日のエントリーの時点では、

香港行政長官の普通選挙導入に関して、その発言を内政干渉と名指しされているヒューゴ・スワイヤー閣外相は、ジャーディン・マセソンと並び立つコングロマリット、スワイヤー・パシフィックの創業家と縁戚関係にあるのだろうか。

そして、同じく香港有数のコングロマリット、長江実業も支那本土の資産売却を進めている。

2013年10月14日のエントリーの時点では、

安倍首相は日英関係を「ア・プリオリの」パートナーシップである、と先月30日に行われた英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)主催の日英安全保障協力会議の基調講演で発言した。

今回の日英安全保障協力会議の開催、来月予定のHMSデアリングの寄港、合同演習、日英防衛当局間の海上安全保障に関する協議で、さらに日英同盟締結再びは近づくことになる。

2013年10月17日のエントリーの時点では、

つづいて英中は、ポンドと人民元の直接取引に出てきた。中共は人民元のハードカレンシー化をけして諦めてはいない。元切り上げによって、2005年から2008年までに約20%高くなっていた人民元は、2013年現在では2005年と比較して約35%高くなっている。現在のレートは1ドル=約6.14元で推移している。1ドル=6.0元の突破は今年中にあり得るだろう。

共産党政府は他国の資源エネルギーと農産物、優良企業の買収戦略をさらに推し進める。英国はその買収のお手伝いをしましょう、と云っている訳だ。

2013年10月27日のエントリーの時点では、

NSC(国家安全保障会議)発足後、速やかに日英間のホットラインが開設される、と日経と朝日が報道している。両政府間ではすでに日英情報保護協定の締結でも合意している。「特定秘密保全法案」もこれに連動している、と思われる。

2014年4月5日のエントリーの時点では、

シティーを中心としたグレーター・ロンドン周辺の商業用不動産と富豪用の邸宅を富裕な外国人実業家に購入してもらい、実業家のいくらかが拠点を置き、オフショア人民元債券(点心債)やイスラム債券(スクーク)の取引が活発化すればシティーも潤い、金融部門の雇用も増え、不動産開発のためのインフラ建設も同時に盛んになり、英国経済のダイナミズムが動き出す、というのがジョンブルの描いた勝利の方程式だ。

2014年5月5日のエントリーの時点では、

東芝は英国の原発発電会社ニュージェンに、子会社のウェスティングハウス製の加圧水型原子炉3基を納入するため、直接ニュージェンを買収(60%の株式取得)する。納入後はニュージェンの株式を売却する意向。同様に日立製作所も英国のホライズン・ニュークリア・パワーを買収、納入後は株式を売却するスキームを方針としている。

欧州各国(ドイツ~英国~ポルトガル~スペイン~フランス~ベルギー)歴訪中の安倍首相は、英国で日立製作所が納入した鉄道に試乗して、ロンドン・オリンピック会場を視察。また両国間の原子力に関する協力関係を強化するイベントに出席した。

2014年6月18日のエントリーの時点では、

英国は対中LNG供給契約をまとめ、鉄道や原子力などのインフラ整備でも我が国やフランス、イタリアなどに対する競合として中国を引き込んだ。もちろん、英中共同声明には安全保障面での協力についての言及は一切ないが。

李克強首相の訪中で、もっとも重要なトピックはオフショア人民元についてだろう。2013年6月の英中スワップ協定、2013年10月のポンドと人民元の直接取引開始以降、目立った動きがなかったオフショア人民元の活用の具体策として、中国建設銀行を人民元決済銀行とする、と李克強首相が述べた。

人のカネから利鞘を抜く自国の金融ビジネスモデルが窮地に陥り、ギリギリ持ちこたえている英国は、シティーを中心としたグレーター・ロンドン周辺の商業用不動産と富豪用の邸宅を売り物にしているが、まだ支那本土からカネを抜くことを諦めていない。

2015年1月25日のエントリーの時点では、

日英外務・防衛担当閣僚級会合(2プラス2)が初めて開催された。協議されたのは2国間訓練の拡充、サイバー対策、海賊対策、装備品の協力の推進、物品役務相互提供協定(ACSA)の早期締結など。

特に防衛装備品での協力では、化学防護服の性能評価と空対空ミサイル(AAM)の共同研究を行い、加えて哨戒機P1の輸出を念頭に現地生産や技術移転を求めるオフセット取引といった調達方法でも意見交換した。

【日英の安全保障協力の進展】
2012年06月 防衛協力覚書締結
2013年07月 防衛装備品協力の協定締結・化学防護服の共同研究開始・情報保護協定署名
2013年10月 日英のNSC定期協議・NSC間のホットライン開設合意
2013年11月 英国海軍HMSデアリングの寄港
2014年01月 日英情報保護協定発効
2014年05月 日英首脳会談でACSA締結交渉開始
2014年07月 空対空ミサイル開発に向けた共同研究開始
2015年01月 日英2プラス2初開催

2015年2月26日のエントリーの時点では、

日英の防衛協力強化の一環として、海上自衛隊の自衛艦隊司令部に英国海軍将校が連絡官として派遣されることとなった。

HSBC、スタンダード・チャータード、RBSなど主要な英国の銀行は、そろって投資銀行業務と海外業務を縮小・廃止している。金融業主体のモデルを製造業主体のモデルへ転換すべきだろうが、日米両国のようにリショアリングを進めることはできず、シティーを中心としたグレーター・ロンドン周辺の商業用不動産と富豪用の邸宅の売買によるバブルで景気浮揚を図っている。

彼らが英国本土でオフショア人民元を吸い取ろうとしているように、我が国は春節(旧正月)の訪日中国人観光客の「爆買い」で吸い取ろうとしている。吸い取ったあとでならば“対中封じ込め”の政治的障害はより少なくなる。

2015年3月24日のエントリーの時点では、

中国共産党が設立を図るアジアインフラ投資銀行(AIIB)に関する局面がやや変化してきた。G7であるカナダがAIIBへの参加を検討し始めた。

G7のなかでは初めに英国が参加を表明して、続いて独仏伊が参加を表明しており、この時点で参加表明した独仏伊の欧州大陸3カ国の陣営と英国と豪州のアングロサクソン陣営では、G7ではない豪州は格落ちとなってしまう。

各国の思惑と国益も違う。日米欧の利害の一致が可能ならば中共の主導権を奪えるが、利害調整が出来るか分からない。

英国は不動産バブルが崩壊している中共のカネを抜きにかかる(キャピタルフライトさせる)ことが最上の利益。独仏伊は未だ支那本土への投資を減らしていないため、バブル崩壊の実損を出さないような形でソフトランディングさせるのが最上の利益。日米は不動産バブル崩壊の余波を中国国内に押しとどめるのが最上の利益。

我が国としては万が一、AIIBのルールづくりに積極的に臨むならば調達先の品質規定を厳しくして日本製しか使えないようにすべきだろう。消極的であってもAIIBのルールづくりが紛糾して、実効あるインフラ投資が遅れに遅れることは望ましいし、その間にADBを強化するのも一手だろう。

2015年3月15日のエントリーの時点では、

昨今の中共による横紙破りの例を挙げると、香港ではオキュパイ・セントラル~雨傘革命の余波を受けて、一国二制度の根拠となる「香港問題に関する英中共同声明」が一方的に無効宣言された。また支那本土で外資が2014年10月までに得たキャピタルゲインを遡及法で課税する方針が明らかになっている。

習近平の腐敗撲滅を掲げた経済縮小路線とリコノミクスが相反している状況で、オフショア人民元を抜きにかかっていた英国の投資銀行がこぞって撤退し始めている。辛うじて香港などの華僑・華人系富豪がロンドン・シティーに拠点を移しているが、富豪たちが脱出したあとではバブル崩壊後の底値買いもしづらいだろう。

2015年8月11日のエントリーの時点では、

日英外相会談で両外相は「法の支配」や航行の自由といった原則を確認した。「法の支配」に言及した英国の枠組みつくりの柔軟さには定評がある。

英国は、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に出資表明した一方、米国以外では最も我が国との防衛協力が深化している。中共を上げて落とすロンドン・シティーと利害を一致させる可能性も充分ある。

ミンスク合意に潜むウクライナ解体の危機

ドイツが難民政策に修正を加えようとしている現在、“難民の行軍”を押しとどめてきたハンガリーはもっと評価されても良いだろう。

このドイツの外殻部に当たる中欧のヴィシェグラード・グループのV4(ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー)各国は、フォルクスワーゲンの排ガス不正に始まる欧州自動車産業の混乱にも直撃されるだろう。

しかし、忘れてはならないのは独仏が手を引きつつあるウクライナ危機に、V4がどのように介入して影響を与えていくのか、という視点である。

かつて、1938年のミュンヘン会談によって、チェコスロバキアのドイツ人居住地域であったズデーテンラントは無血でナチス政権のドイツに割譲された。

戦間期のチェコスロバキアは、ボヘミア(ベーメン)とモラビア(メーレン)に住むチェコ人とスロバキア人、そしてルテニア人の住むカルパティア・ルテニア(現在のウクライナ領ザカルパッチャ)から成る連合国家であった。

ズデーテンラントを失った当時のチェコスロバキア第一共和国(Československá republika)政府は、統一国家としての求心力も失い、各地域が自治政府を立ち上げて、第二共和国政府として再編された。

しかし、歴史的領域の回復を目指すドイツとハンガリー、ポーランドの挟み撃ちを喰らい、最終的にチェコとスロバキア北部はドイツに、スロバキア南部とカルパティア・ルテニアはハンガリーに、シレジア(シュレジェン)の都市テッシェンはポーランドに、とバラバラに解体されて、それぞれの保護領や従属国となるか自国領として併合されて、チェコスロバキア第二共和国(Česko-Slovenská republika)はわずか1年で滅亡した。

ちなみに、チェコとスロバキアの間にハイフンが入っているか否かは、冷戦終結によるビロード革命後の国名を巡るハイフン戦争から、分離独立を指すビロード離婚にまで繋がっている。

中国懸念を切り抜けた中欧諸国、選挙やVW不正が次のリスクに  2015年 10月 15日 19:24 JST ロイター

さて、たびたび筆者は1939年を2015年に比定してきた。

人民戦線に与して敗れたカタロニア人や共和主義者がピレネー山脈を越えてきたスペイン内戦と比べるには、アサド政権の暴虐に苦しんだクルド人やスンニ派がエーゲ海を渡ってくるシリア内戦だろうか。

では、英仏に捨てられてズデーテンラントを失ったチェコスロバキアと比べるには、独仏に捨てられてクリミア半島を失ったウクライナだろうか。

ウクライナ政府は、停戦合意「ミンスク2」を履行するためにはアクロバティックな政権運営を迫られる。

クーデターの立役者でもあった強硬派の右派セクターやスヴォボダを排除しながらも、国民の支持率を回復させて強硬派のクーデターや勢力伸長を押しとどめて「ミンスク2」を履行したい。

親露派に実効支配されているドンバス地方の一部(ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国)での選挙を実施しながらも、殺される覚悟のある親露派以外の候補を擁立させて発言権を持てる程の有効票を得たい。

米国やカナダの財政支援や投融資をつなぎとめるために第二公用語として英語を普及させながらも、現在のウクライナ危機の発端となったロシア語話者を減少させてロシア語公用語化の芽を摘みたい。

EU連合協定を締結して欧州とロシアの中継貿易で利益を上げつつも、厳しい冬を乗り切るためにロシアの安い天然ガスを確保したい。

これらは、ほとんど実現不可能の羅列に過ぎない。

独仏の経済と政治の混迷はそのままポーランドやハンガリーに波及して、それぞれの国のナショナリズムを醸成させていく。すでにハンガリーでは右派政権が確固たる基盤を築いている。ポーランドでも右派政党が支持を伸ばしている。

ミュンヘン協定とズデーテンラントの割譲でチェコスロバキア第一共和国が混乱に陥ったように、ウクライナではミンスク合意の履行と、クリミア半島とドンバス地方の失陥が響き、ガリツィアはポーランドの影響力が増し、カルパティア・ルテニアはハンガリーの影響力が増していくかもしれない。

プーチンと同じ地平に立つメドベージェフ

現在、首相を挟んで3期目(2012年~現在)を務めるプーチン大統領は、2期目(2004年~2008年)の終わりに近づいた2008年2月8日『2020年までの発展戦略』を発表、大統領退任後のエネルギー資源依存型経済からイノベーション主導型経済への移行を目指した。

イノベーション主導型経済への移行を妨げるボトルネックは、その広大な国土ゆえのインフラの弱さにあった。特にウラル山脈の西側と東側の人口比重の違い、エネルギー資源の分布比重の違いがそこに拍車を掛けてきた。これが過度のエネルギー資源に依存した経済構造と効率性の悪さ、所得格差と男性の平均寿命低下・人口減少を生じさせていた。

エネルギー資源依存型経済からのブレイクスルーには、シベリア鉄道・バム鉄道の延伸及び複線化などウラル山脈の東西を繋ぐインフラの整備、日本など先進国からの資本・技術導入、イノベーティブな経済成長を果たすための企業家精神とそれを守る法秩序の確立を必要としている。

しかし、伝統的な支那社会と同様に、官吏となって利権を貪ることが富貴への最適な道なのだ。我が国や欧米など先進国と違い、新しい技術やサービスを作り出し、それを提供する企業家となることが富貴への最短ルートではない。

ロシア社会の支配者は、ロマノフ朝の大貴族からソ連邦のノーメンクラトゥーラ(世襲化した共産党官僚)へ、次いで市場経済導入の過程で形成されたオリガルヒ(ロシア経済を寡頭支配した資本家)からシロヴィキ(治安・国防官僚出身者による勢力)へと変遷してきた。

どちらにせよエネルギー資源産業に依存した経済構造が変更された訳ではない。税金を収めず国富を独占して、権威と権力がひとつの階級・階層に集中されるのも、ロシアの歴史に通底する特徴であった。

ソ連邦時代につくられたテトリスやチェブラーシカがカネ儲けの種となると分かった途端、著作権で争った件に垣間見られるように、企業家精神とそれを守る法秩序が欠如している。これは他の資源についても同じである。つまり、企業家が勃興する際に起きる不安定(利害関係の変化)を政治的強権でしか正せないことになる。

企業家精神の育成と法秩序の構築を無視してイノベーティブな経済成長を果たすためには、中国と同じように我が国の資本と技術が必要になる。しかしそれには日露間の講和条約は必須であるが、我が国の反応は鈍い。

特に、我が国の経済界にとっては、ウラル山脈の東側の人口の少なさはボトルネックであり、2006年のサハリン2の開発中止と国営ガスプロムによる権益奪取、2015年の北方漁業権の喪失などが続発して、法秩序未整備によるカントリーリスク以上の利益をもたらしてくれる希望が見出だせない。

3期目に入ったプーチン大統領の現在も、イノベーション主導型経済への転換は進まず、選択肢は“富の国外流出か、闇経済の国内拡大か”くらいしかなかった。せめて国外脱出を図るオリガルヒを締め上げ、シロヴィキの闇経済を容認するくらいしか出来なかった、と言える。

しかし、エネルギー資源依存型経済には明るい兆しもあった。中国をはじめとする新興国の“爆食”によって、モスクワとサンクトペテルブルクの二大都市圏のサービス業依存から、北コーカサスではダゲスタン(石油化学工業)、ウラルではチュメニ(石油工業)、南部ではクラスノダール(機械工業)と、それぞれ各地方の中核都市が発展した。

この恩恵で、リーマン・ショック後に海外出稼ぎ労働者が帰国したものの、これらの労働力を吸収できた。また、政府が2人目以降の出産にはドル換算で1万ドルを支給したことで、人口が一時的に増加した。“爆食”に伴う雇用創出と所得再分配効果が起きていた。よって、構造問題が改めて顕在化したのは、ウクライナ危機による経済制裁以降である。上海株式市場のバブル崩壊で始まったチャイナ・ショックはこれに拍車を掛けるだろう。

2012年にもメドベージェフ首相は、フェイスブックのCEOに国内投資を呼びかけるなど、自らが発案したロシア版シリコンバレー「スコルコヴォ(Skolkovo)」の育成に努めてきた。スコルコヴォ5周年でのオープンイノベーションについての議論で、首相はロシアの構造改革とその条件、法治社会の確立を挙げた。つまり、アプローチは違うにせよ、プーチン大統領と同じ地平に到達しているのだ。しかし、その前途はプーチンの辿った道と同じく暗い。それはロシアの近世から近代の歴史に起因する。

ロシアを正しく理解するメドベージェフ首相の前途多難 2015.10.8(木) JB PRESS

欧州では、各国の資本主義の進展によって異なるが、ブルジョワの勃興が絶対君主を生んだと言える。ブルジョワの台頭初期の国家における絶対君主の役割とは、その権力の集中によって彼らの生命と財産の自由を擁護することだった。

ところがロシアは、新規税収とイノベーションの源にして国力を増大させる原動力たるブルジョワ(のちの産業資本、今で云えば企業家)が存在しない国々のひとつだった。こうした遅れた国々においては、上からの近代化を進める絶対君主=啓蒙専制君主が現れた。

そこに到るには大空位時代ののち1613年に成立した、ロマノフ朝にまで遡る。

アレクセイ帝(厳密にはロシアのツァーリ)のときは地主と農民は契約関係であったが、ピョートル大帝(ここからインペラトール)のときに人頭税導入によって土地に縛られ、啓蒙専制君主として名高いエカテリーナ女帝のときに完全な農奴制となった。

ロシアの農奴制は、英国のエンクロージャーによって逐われた農民が賃金労働者となったのとは真逆である。当時のスウェーデン、トルコ両帝国に対抗する国力を得るためにブルジョワのまったくいない国家においては、こうした逆コースもやむなしであったかもしれない。そして、ブルジョワも産業資本が充分に育たないまま、第1次大戦と二月革命と十月革命を迎える。

今に至るまでロシアを悩ませる決定的な歴史上最大の失敗は資本主義を経ないで共産主義に移行したことだった。

資本主義を経なかったロシアは、イノベーションを担う企業家精神とそれを守る法秩序が欠如している。これらは中韓も同様だ。そして、中共が均一化された労働力、もしくは均一化の選別に耐えうる労働人口さえあれば、資本主義の精神がなくとも、先進国の資本と技術によって近代化されうる実証例となった。

ロシアはただそれに倣いたいだけなのだ。プーチン大統領は自動車産業を、メドベージェフ首相はIT産業を誘致したい違いがあるだけで思惑は変わらない。

その倣いの先に拡がるのは生命と財産の自由がなく、言論と信教の自由がなく、また集会と結社の自由がない、ツァーリと大貴族とコサックと農奴が存在したロシアの歴史の変奏曲となる可能性は高い。

ロシア経済最良の時期に、富の再分配を強権で行うことが出来なかったのは痛い。外的要因でエネルギー資源依存型の経済成長は終わった。給料未払いやインフレによる給料減価によって、シロヴィキの自主防衛手段、賄賂の横行が猖獗を極め始めている。今後、インフラの維持が滞れば、ソ連滅亡の最大要因となった物流の停止が起きるかもしれない。

家庭内イデオロギー対立劇『Family Ties』再び

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズの主演俳優として知られる、マイケル・J・フォックスのコメディセンスが認められたのが『ファミリータイズ』(Family Ties:1982年~1989年)というTVドラマシリーズだった。一時期、東京12チャンネル(現テレビ東京)で放送されていた記憶がある。

このドラマのスケジュールがタイトだったので、主人公マーティ・マクフライ役は別の俳優(エリック・ストルツ)に割り振られて、撮影が進んだが、センスが合わず降板、マイケル・J・フォックスに再オファーが回ってきた、というエピソードは有名。

『ファミリータイズ』の面白さは、親がヒッピー崩れのリベラル、子供がレーガノミクスの申し子という世代間のズレが醸し出す会話劇にあったのだが、当時、そんな政治背景を知らないし、興味もなかったのでまったく面白くなかった。後番組の『俺がハマーだ!』の方が断然、面白かった。

マイケル・J・フォックスは、コメディを散りばめたサクセス・ストーリーの『摩天楼<ニューヨーク>はバラ色に』(The Secret of my Success:1987年)や、当時のジェネレーションXと呼ばれた世代の青春の苦悩を描いた『再会の街/ブライトライツ・ビッグシティ』(Bright Lights, Big City:1988年)などの劇中では、1980年代の雰囲気を体現していたが、2000年代以降はパーキンソン病の闘病で第一線を退いでしまった。

米二大政党、「異常性」は変貌の証し 25年で支持層が一変 2015 年 10 月 13 日 17:50 JST WSJ日本版

振り返ると、マイケル・J・フォックスの世代であるジェネレーションXは親の世代であるベビーブーマーの対極にあった。レーガノミクスによる金融経済化の始まりとともにウォール街に就職するのが正しく、冷戦に勝利を収めた強い合衆国の瞬間を脳裏に刻み込んで、平和の配当に基づくリストラ(人員整理)の嵐にも巻き込まれた。そんな彼らもいつしか親になり、子供を持つ。

すると、その子供の世代はジェネレーションYと呼ばれて、オバマ大統領を当選させる原動力になった。つまり、ドラマ『ファミリータイズ』の逆転版が現代米国の家庭の情景だったりする。親の因果が子に報い、ではないが政治的スタンスが逆転するのは夜の東西を問わないのかもしれない。しかし、米国の社会変動の程度は並大抵ではない。

タバコは規制がかかる一方だがマリファナは解禁され、そもそもファンダメンタリズム(原理主義)の本場であるはずの国でゲイ同士の結婚が合法になった。

ポリティカル・コレクトネスはただの粗探しに陥り、ボストン美術館の着物試着イベント“キモノ・ウェンズデー”は人種差別で中止、オフ・ブロードウェイで上演される予定だったオペレッタ『ミカド』も人種差別で中止。中止に追い込んだアジア系米国人とやらに日系人はいないことは容易に想像は付く。

「動くなよ、的が外れるから」とか曰ってた『俺がハマーだ!』も白人警官を殺した黒人を撃ったら、クビになったり、逮捕されたり、訴追されて45分1回で打ち切りになってしまうのでしょうね。

参考URL:
上記記事からJPG画像で見るDifferent Faces(1990年と2015年に実施されたWSJ/NBCによる共和党・民主党支持者層の世論調査比較)

3度目のインティファーダにニュースバリューなく

クーデターで政権を奪い、湾岸諸国の介入により政権を逐われたイエメンのフーシ派は、内戦に正規軍を投入して優勢なはずのサウジ空軍基地へ向けて、弾道ミサイルを発射した、とロイター電は伝える。

この予期せぬ攻撃を受けて、という訳ではないが、湾岸協力会議(GCC)諸国はイスラエルの防空システム、アイアンドームを購入しようとしている、という英国SKY NEWSの記事も見られた。

イエメンのフーシ派、サウジ空軍基地に弾道ミサイルを発射 2015年 10月 15日 19:28 JST ロイター

Gulf States Set To Buy Iron Dome System 15:53, UK, Tuesday 13 October 2015 SKY NEWS

スンニ派とシーア派の戦いは、実のところ、イスラエルとスンニ派諸国の利害を一致させるに到った(2013年7月13日のエントリー参照)。

1938年来のサウジアラビアと米国の蜜月は終わり(2013年10月26日のエントリー参照)、米国はメキシコに戻りつつある。

また、イスラエル建国以来続いた米国の蜜月も終わっていることも重なっている(2015年9月4日のエントリー参照)。

ガザ地区を実効支配しているハマスは、エジプトを逐われたムスリム同胞団及び、シリア内戦で疲弊するヒズボラと連携していたために相対的に弱体化した。

サルマン国王の治世になったサウジアラビアは、ムスリム同胞団とハマスとの関係改善を進めている(2015年7月19日のエントリー参照)。

その国王は、同時にガザ地区へ生活物資や武器・人員を通すトンネルを潰しているエジプト軍事政権に資金を提供して、フランスが売却停止したロシア向けの強襲揚陸艦を買い取らせてもいる(2015年9月26日のエントリー参照)。

加えて、イスラエルからのアイアンドーム購入計画である。湾岸協力会議の産油国はパレスチナ人の敵に塩を送っている訳だ。

自治政府を持つとはいえ、ガザ地区とヨルダン川西岸地区に分かれるパレスチナ人にとって、シリア内戦のようにムスリム同胞団とヒズボラの来援は期待できず、3度目のインティファーダは起こすにしても、イラク~シリア~イエメンの内戦のニュースバリューに比べて、欧米の興味を引くところは少なく、スンニ派勢力の支援も上記のように、利害の交錯から限定的なものになる。

Palestinians set fire to Jewish holy site as Israel tensions mount Updated: Oct 16, 2015 20:54 IST Hindustan Times

Israel sets up East Jerusalem roadblocks in bid to stem attacks Wed Oct 14, 2015 4:59pm EDT Reuters

国際機関でのオブザーバー資格など名目的な認知は得られているが、パレスチナの政治経済の実態は悪化している。おそらく、パレスチナ人のフラストレーションは高く、心理的に追い詰められた形でのテロやインティファーダが起きていく。同時にイスラエルの弾圧は激しく、他のイスラム諸国の支持は薄い。

しかしながら、ホワイトハウスと国務省、国防総省、米国議会のイスラエル・ロビーの思惑はバラバラである(2015年3月9日のエントリー参照)。

今こそ、3度目のインティファーダ、それも最後の機会が到来しているのかもしれない。

『サンディニスタ!』とニカラグア運河

ザ・クラッシュのアルバム『サンディニスタ!』(1980年)は、当時、ニカラグア革命を起こしたサンディニスタ民族解放戦線(FSLN)政権をそのまま表題に掲げ、パンク・ロックの精神を突き詰めた、より政治的メッセージの濃い3枚組の大作であった。もっとも、前作『ロンドン・コーリング』(1979年)の方が評価も高く、セールスも良かったし、個人的にも好きではあるが。

FSLNの指導者だったダニエル・オルテガは、2007年から現在、ニカラグア大統領を務めている。2013年6月にニカラグア政府は、中国の大富豪が率いる投資グループに、ニカラグア運河のファイナンス、設計・開発・建設・メンテナンスから所有・操業管理に関する50年間リースの利権を付与した。

投資グループは、香港ニカラグア運河開発投資公司(HKND Group)という企業体で、率いるのは中共の通信キャリア、信威通信産業集団(Beijing Xinwei Telecom Technology Group Co., Ltd.)で、財を成した王靖(Wang Jing)という大富豪だ。しかし、上海株式市場のバブル崩壊の煽りをまともに喰らい、彼の資産時価総額は$10.2 billionから$1.1 billionへと84%急減した、とブルームバーグは報じている。

ニカラグア運河の完成期限は2020年とされているが、土地の収用や環境調査などは進んでおらず、その実現性は懐疑的に見られている。中国共産党の国営企業の過剰供給力を以ってしてもどうにかなるものでもない。

運河の予定地であるEl Tuleという小さな街では、建設労働者の姿を見かけることもなく、地元のJuharling Mendozaという人は「計画は進みっこない」と、2階建てゲストルーム付きの店舗併設の自宅を建てていた。

中南米・カリブ海地域での中共の壮大なインフラ整備計画は、中南米諸国特有のポプリスモ政治と同化しながら、腐敗を巻き散らす存在に成り果てるかもしれない。

ジョー・ストラマー(1952年生~2002年没)が、アルバム『サンディニスタ!』で、抑圧的な帝国主義として批判したのはチリの軍事政権、ニカラグア革命に介入する米国、アフガニスタンに介入するソ連、チベットを侵略する中国共産党だった。

その中国共産党に運河の利権を与えているのが、ニカラグア革命の指導者だったFSLNのオルテガ大統領、というのは皮肉この上ないではないか。

This Chinese Billionaire Has Lost More Than Glasenberg in 2015 October 2, 2015 — 10:54 AM JST Bloomberg Business

中資尼加拉瓜運河項目「充滿風險和不確定」 2015年 9月 30日 BBC NEWS中文

China's Building a Huge Canal in Nicaragua, But We Couldn't Find It August 20, 2015 — 6:00 AM JST Bloomberg Business

Comparing The Nicaragua Canal to Other Chinese Investments(上記記事からJPG)

一方、パナマ運河の拡張工事も約1年の遅延を経て、2016年4月に完了予定となっている。パナマ運河拡張には、日米両国の液化天然ガス(LNG)プロジェクトも関係している。2018年の輸入開始に向けて、テキサス州フリーポート、ルイジアナ州キャメロン、メリーランド州コーブポイントのLNG輸出入プロジェクトが進行しており、我が国の政府系金融、商社、電力、都市ガス、造船、海運すべてが参画している。

東シナ海~南シナ海のシーレンにおいて中共海軍が脅威になろうとしているさなか、カリブ海~パナマ運河~太平洋のシーレーンは我が国にとって、フェイルセーフの役割を担うことになる。すでに東シナ海~南シナ海の紛争の阻止限界点は突破しているのか、それとも2018年で間に合うのか。未だ分からない。

三菱重工と川重、LNG運搬船を2隻ずつ受注-新パナマ運河対応、燃費改善技術を駆使 掲載日 2015年09月10日 日刊工業新聞

パナマ運河拡張工事9割完成 来年4月完了予定 2015.7.7 12:13 産経ニュース 

パナマ拡張・スエズ複線化… 国際航路、大競争時代 2015/2/3 7:00 日経

参考URL:
パナマ運河拡張が国際物流に与える影響について 2015年5月20日 (公財)日本海事センター(PDF)

パナマ運河は日本とともに 2015.1 国際協力銀行(PDF)

パナマ運河拡張とニカラグア大運河計画 2014/9/10 JOGMEC(PDF)

パナマ運河拡張が世界の海運・造船 産業に与える影響に関する調査 2009年 3月 社団法人 日本中小型造船工業会(PDF)

パナマ運河と「ニカラグア大運河計画」との比較 2006年12月29日 国士舘大学文学部(PDF)

難民危機に対する“ミュンヘン一揆”

ようやくドイツは難民受け入れの制限措置に踏み出しつつある。そのドイツの政権与党は、CDU(ドイツキリスト教民主同盟)/CSU(キリスト教社会同盟)の統一会派である。

CSUはバイエルン州(かつてのバイエルン王国)のみの地域政党であり、カソリックの多い保守的・地方分権的な地盤に支えられている。

Merkel Under Fire: German Conservatives Deeply Split over Refugees October 09, 2015 – 06:02 PM SPIEGEL ONLINE INTERNATIONAL

ドイツを最終目的地とする“難民の行軍”の最初の関門がドイツで一番保守的な地域、つまりハンガリーと親和性を持っていたことは、無制限の難民流入を容認するかのようなメルケル連邦首相の方針を変える一助となった。

州政府は難民の受け入れ上限を定めないメルケル政権に対して、州の自治を保証した憲法に違反するとして連邦憲法裁判所に提訴する可能性を示唆した。CSUは内閣に4人おり、対立は政権与党の権力闘争に発展する怖れがあった。

この対立を解消するために、ドイツ連邦議会は経済難民と不法移民の国外退去促進法案を審議している。

German parliament readies to vote on new asylum laws 14.10.2015  Deutsche Welle

Deutsche Welleの伝えるところ、CDU/CSUの提案内容は難民審査のためのトランジットゾーンを設け、48時間の審査で振り分け、現金などの給付を制限、アルバニア、コソボ、モンテネグロは難民対象国から除外、該当しない経済難民と不法移民は送還措置まで収容施設に送り、長期滞在許可の出る難民には社会保障カードを与える、というものだ。野党のドイツ社会民主党(SPD)は法案に反対しているが、法案は通過する見込み。

TPPによる“対中封じ込め”

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が“対中封じ込め”とリンケージした安全保障の役割を担う、と閣僚が言及したのを筆者が確認したのは、2013年3月の甘利経済再生担当相兼TPP担当相の発言からだった(2013年3月22日のエントリー参照)。

“対中封じ込め”にとって障害だったのが、ASEAN諸国やオセアニアなどは、経済(貿易額)では中共に依存し、安全保障(貿易ルート)では米国に依存している、ということだった。いわゆるG2(米中による太平洋分割支配)の提唱もここから派生している。しかし、貿易ルートを守る者(米国)にとっては、貿易額を増大させる者(中共)が、そのルートを脅かす側に回っている「ねじれ」の現状では、G2も成立し得ない。

TPPは上記の関係国を経済面における中共依存から引き剥がす役割を担っている。いずれはTPPの貿易圏内で中共との交易を上回るようにすることで、経済と安全保障で日米に依存させて、貿易額を増大させる者が同時に貿易ルートを脅かす、という情勢下で発生している関係国の経済と外交・軍事の緊張状態を解消させる。

これがTPPの安全保障とのリンケージの本質となる。こうしたリンケージの戦略的発想がなければ、TPPに賛意を示す気にはなれないだろう。

中国の資源輸入増加、裏で鉄鋼や石油製品の輸出伸びる-9月貿易統計 2015/10/14 09:36 JST ブルームバーグ

中国の貿易額7カ月連続マイナス 9月は11%減、成長に打撃 通年目標達成は絶望的 2015.10.13 20:19 産経ニュース

UPDATE 3-中国の9月輸出は予想より小幅な減少、輸入は大幅減 2015年 10月 13日 17:15 JST ロイター

中国:9月の輸入、11カ月連続で前年割れ-世界経済に逆風 (2) 2015/10/13 15:19 JST ブルームバーグ

TPPの大筋合意は、日米ともに年内の批准に向けた議会工作を考えれば、上海株式市場のバブル崩壊が明らかになった7月初めが望ましかった。それでも、中国の輸入が9月は11ヶ月連続のマイナス、前年同月比20%減となっていることから、経済(貿易額)から見たタイミングとインパクトとしてはまずまずと云える。しかし、政治的日程としては、来年の参院選を控えた通常国会と大統領選を控えた米国議会の動向如何では発効しない可能性はある。

中国紙「敗者となるのは米国だ」 TPP交渉の大筋合意 2015.10.12 13:50 産経ニュース

さて、自民党外交・経済連携調査会が採択したTPPに関する決議にあった国益6項目は、
(1)農林水産品の関税
(2)自動車の安全基準、環境基準、数値目標
(3)国民皆保険、公的薬価制度
(4)食の安全・安心の基準
(5)ISD(投資者・国家訴訟制度)条項の拒否
(6)政府調達・金融サービス業
だった。

これらについて、内閣官房から発表されている概要で見ていこう。

まず、農産品(米、麦、砂糖、牛肉、豚肉、乳製品)の関税については維持されている。

ISD条項に関しては、そもそも仲裁法廷の権限かどうかの異議申し立て、すべての事案の公開、申し立て期間の制限を濫訴防止措置として組み込んでいる。

ラチェット条項に対する包括的留保=将来に渡る国内政策変更を認めるものに、社会事業サービス(保健、社会保障、社会保険等)、政府財産、公営競技等、放送業、初等及び中等教育、エネルギー産業、領海等における漁業、警備業、土地取引等が挙げられており、いわゆる国民皆保険、自動車の安全・環境基準、食の安全基準は含まれている、と見て良いだろう。

金融サービスでは、公的年金及び公的医療保険は適用対象外となっている。

工業製品の数値目標は設定されていない。むしろ輸出額で、関税の即時撤廃の割合は76.6%に達している。

政府調達に関しては、外国企業の参入を規制する法律がもともと無い。むしろマレーシア、ベトナム及びブルネイに対して内国民待遇が得られた。

参考URL:
環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の概要 平成27年10月5日 内閣官房TPP政府対策本部(PDF)

クルドも戦争犯罪人の列に並ぶ

トルコ~シリア~イラク~イランに跨って分布するクルド人。その国なき民にとって、イラクとシリアの内戦、そしてトルコの再選挙間近に連発するテロは、独立もしくは自治権を獲得する機会が到来したものと捉えることができる。

このままの推移で行けば、トルコはテロによる騒擾状態が続き、ISIS(イスラム国)とクルド労働者党(PKK)が同時にトルコ国内に侵入する最悪の事態も想定できる。

混沌の中から独立を勝ち取れるか否か。すでにイラクのクルディスタン地域は自治権を獲得。また、シリアのクルド人も事実上の自治領域を維持している。

イラクのクルド人は、事実上の国軍であるペシュメルガを組織しており、ISISと対峙している。米国は上記のPKKはテロ組織と認定しているが、ペシュメルガには軍事支援を行っている。イラク国軍や比較的穏健とみられるイスラム民兵組織への支援が失敗したことを事実上、認めている米国にとって、ペシュメルガへの支援増大は選択肢のひとつと見られている。

To Save Iraq, Arm the Kurds OCT. 11, 2015 The New York Times

一方、米国と同じNATOの一員であるトルコ政府は、PKKとシリアのクルド人政党である民主統一党(PYD)と、その戦闘部隊クルド人民防衛隊(YPG)は連携して行動している、と認識しており、トルコ-シリア間の国境からISISの戦闘員がリクルートされていくのを徹底的に取り締まらず、半ば黙認していた。この政策の反動が現在のトルコ国内のテロ頻発を招いている。

トルコ国内のクルド人が、トルコに対する帰属心を全面的に失うことがあれば、それはトルコ内戦の前提条件のひとつとなる。トルコ政府は、政治的に弱体化させてきた小トルコ主義を掲げる国軍の力に頼らざるを得なくなり、エルドアン大統領の大トルコ主義とイスラム原理主義の傾斜はますます難しくなるだろう。

内戦に陥った場合、トルコがクルド人問題を解決する手段は戦争による住民交換、最悪は民族浄化(エスニック・クレンジング)となる。20世紀最初のジェノサイドとして非難され続けるアルメニア人虐殺再び、となるか。

Syria Kurds 'razing villages seized from IS' - Amnesty 13 October 2015 BBC NEWS

しかしながら、アムネスティの発表によると、シリアのクルド人政党PYDと戦闘部隊のYPGは占領した領域に居住するクルド人以外の民族・宗派の人々を強制的に追い出している、という。これが事実ならば戦争犯罪にほかならない。シリアのクルド人は自治権獲得後の領域内の不安要素を排除するため、文字通り異なる民族の排除に乗り出している。

つまりは過去の戦争で見られてきた解決法にほかならず、国なき民として迫害の対象だったクルド人も同じ轍を踏もうとしている。

As their power grows, Iraq’s Kurds are fighting among themselves  October 12 at 4:18 PM The Washington Post

さらにイラクのクルディスタン地域では、クルディスタン民族議会を構成する政党同士、クルディスタン民主党(KDP)とゴラン党(Gorran)の間で騒擾が起き、KDPの党事務所が焼き討ちされるなどの混乱が生じている。

背景にはイラクのシーア派政権との政治的分断による経済的な行き詰まりがあり、パイプラインを通じたトルコへの原油輸出だけでは財政が賄えない状態になりつつある。加えて今後、PKKとトルコの関係悪化がトルコとクルディスタン地域政府との関係にもひびを入れるかもしれない。

中東のヘゲモンとして君臨するプーチン大統領

ロシアがシリア内戦への軍事介入を始めたことが契機となって、急激なパラダイム・シフトがアラブ・中東地域に起こっている。

中東の覇権を握る覇者(ヘゲモン)が、合衆国からロシア連邦に替わろうとしているのだ。このパラダイム・シフトが引き起こす外交的震動は、我が国にとって“対中封じ込め”の巨大なダイナモを回す力に変える好機ともなっている。

プーチン大統領はサウジアラビア国防相と会談した。トルコはアンカラのテロによって、内政に縛られ、能動的な動きが取れなくなり、ロシアとイランとの協議に前向きになっている。

Russia sees progress with U.S., Saudi on Syria Monday, 12 October 2015 Al Arabiya News

Putin and Saudi defense minister meet in Russia, agree on common goals in Syria Published time: 11 Oct, 2015 23:08 RT

外交と軍事両面で中東に注力するロシアは、東シナ海~南シナ海~太平洋~インド洋での日米印豪VS中韓の争いに力を割けない。

米軍は、ロシア軍に中東の覇権を暗黙裡に委ねることで“ピボット”もしくは“リバランス”を完遂できる。財政赤字を理由にペルシャ湾と南シナ海の二正面展開は不可能ということが大きい。しかし、すでに中共が埋め立てた南シナ海の人工島の多くが完成し、2隻目の空母建造も進んでいる中で、遅きに失した感はある。

中国の人工島12カイリ内に近く米艦船航行か 中国「侵犯を断固許さない」 2015.10.9 19:46 産経ニュース

Navy to challenge Chinese claims in South China Sea 8:11 p.m. EDT October 7, 2015 USA TODAY

Why China's Nuclear Subs Are Subpar October 7, 2015 The National Interest

China’s Self-Defeating Strategy in the South China Sea October 2, 2015 The National Interest

我が国は事実上、軍事面での中露分断を果たすことができる。中央アジア~シベリア~沿海州における投融資以上の中露協力はない、と思われる。年内のプーチン大統領訪日にこだわる必然性はないのではないか。それに国内世論を考慮すると、北方領土の四島一括返還をあくまで目指すならば、ロシアが中東地域ですり潰されていくのを見守っても良い。

米国の“ピボット”を最大限利用して、南シナ海で直接的な脅威に晒されているフィリピンとベトナムへの協力関係を深め、中共が“一帯一路”に基づいて、戦略的に経済進出している東南アジアと中央アジアの各国をミャンマーやスリランカのように、個別に切り崩していくべきだろう。

イランと日本の外相による共同声明 2015/10/12(月曜) 23:31 IRIB Japanese Radio

日イラン投資協定締結で実質合意 核問題解決へ協力 2015/10/12 22:04 【共同通信】

アメリカの空母がペルシャ湾から撤退 2015/10/09(金曜) 22:04 IRIB Japanese Radio

米国からロシアへの覇権交替劇には、シーア派の雄イランの国際社会の復帰も関わってくる。核合意後のイランは、中東地域のプレーヤーとして存在感を増す。

核合意に基づく制裁解除を見据えて、独仏や中韓などがイランとの貿易投資協定を締結してきた。遅れていた我が国は交渉開始約1ヶ月で日本-イラン投資協定などの合意を見て、両国外相が共同声明を発した。

経済制裁下で設備更新が行われてこなかったプラントなどの受注が進むだろうが、イラン産原油の輸出で原油価格の下落も同様に進み、世界経済の波乱要因のひとつになっている。

我が国にとって産油国の通貨安は、相対的な円高を促進する材料になる。かつてのプラザ合意(1985年9月)の翌年、1986年の年初から7月頃までの原油価格の下落が円高を昂進させた。新興国の代表格である中国経済の失速も伴って、年度内の質的量的緩和の追加と補正予算は必須だろう。

第四次台湾海峡危機は2016年1月に始まる

辛亥革命を記念する双十節の式典に出席した民進党の蔡英文女史に対して、馬英九総統は名指しは避けながらも統一も独立もしない現状維持政策を掲げる女史を批判した。

国民党が推進してきた“一つの中国”の原則に基づく“1992年コンセンサス(九二共識)”を念頭に「誰が総統となっても“1992年コンセンサス”を守らなければならない」旨を強調した。

中共との統一に度々言及して、国民党の総統候補から引きずり降ろされようとしている洪秀柱女史を含め、新たな候補と目される国民党の朱立倫氏や親民党の宋楚瑜氏が一堂に会する席上での発言には、“終極統一”の概念を国民党が捨てていないことを示している。この概念は、2015年5月の習近平国家主席と朱立倫国民党主席の会談でも確認されている。

大戦後、支那大陸から渡った外省人系は統一を諦めてはいない。ただし、総統選と同時実施される立法院(定数113、一院制議会)で議席が3分の1を下回り、憲法改正のイニシアチブを奪われる恐怖感を抱いているために、総統候補の混乱が起きている。

一方、台湾人の6割近くは現状維持政策を支持している。世論に呼応して国民党は、レトリックとしての現状維持政策支持を訴えない洪秀柱女史を総統候補から更迭して、朱立倫党主席を擁立しようとしている。従軍慰安婦問題などで馬総統が中韓と協調してきた経緯を考えれば、国民党の大勢は“終極統一”である。いずれの候補であろうとレトリックの違いしかない。

【更新】台灣大選在即 中國大砍陸客來台數95% 2015年10月06日16:57 蘋果日報

史上初の直接選挙となった1996年の総統選を巡っては、第三次台湾海峡危機が起きた。国民党の圧倒的不利が予測されている以上、総統選以降に第四次台湾海峡危機が発生する、と思われる。中共は12月16日から総統選と立法院選当日の1月16日まで台湾への観光客へのビザ発給を制限する。

また、民進党の政権担当能力の弱さから、政治的謀略が多数工作される怖れがある。誘発された暴動と内乱の懸念も考慮すべきだろう。しかし、直裁的な火蓋は金門島で開かれる可能性が高い。

2015年7月21日のエントリーで触れたが、国民党の馬政権は、1949年と1958年に共産党と攻防を繰り広げた金門島~福建省間の給水契約を締結、給水は2016年末にも開始される見込み、とされる。政権が民進党に代わった場合、この給水契約を破棄しない限り、金門島の陥落は予め決定的である。

台湾人は未だに統一も独立もしない現状維持政策を望んでいるが、どっちつかずの選択肢は激変する世界情勢の前には意味をなさないばかりか危険である。民進党は日米同盟との連携を明確にしているが、この危機感が台湾人に共有されているかは分からない。

望むと望まざるに関わらず、“戦後レジームからの脱却”は台湾にも適用される。激変する歴史の荒波が彼らには見えているだろうか。第三者の目からは、“対中封じ込め”の潮流に乗りきれず、全体として国益を毀損する可能性が高い。

台湾国民創生のダイナミズムが起こせるか否か。

彼らはいくつかのエスニック・グループを統合したひとつのネイションを創る必要に迫られている。政治的に激しい内戦を経て、どちらの側に付くか明快に表明した方が良い。そうしなければ、自国の運命を決定できず、日米や中共の決定に従わざるを得ず、ついに独立国家となる機会を失うだろう。

馬総統、民進党主席に注文 次期有力候補・蔡英文氏に対中政策の継続迫る 台北の式典で顔合わせ 2015.10.10 19:46 産経ニュース

安倍首相、台湾・次期総統最有力の蔡英文氏と非公式に接触か 政権交代見越し日台関係改善の兆し 2015.10.9 13:49 産経ニュース

蔡英文氏、会談相手は「答えられない」 派手な演出避け、日本からの“厚遇”勝ち取る 2015.10.9 19:26 産経ニュース

洪秀柱氏に国民党公認候補辞退を要求 馬英九総統も引導 2015.10.8 19:30 産経ニュース

国民党、分裂の危機も 「国共内戦」敗北以来の衝撃か 公認候補すげ替えの異常事態 2015.10.7 20:07 産経ニュース

与党・国民党の洪秀柱氏、候補者交代を拒否 2015.10.6 19:58 産経ニュース

民進党の蔡英文主席が来日「対日関係重視を示したい」 安倍首相の地元・山口も訪問へ 2015.10.6 12:40 産経ニュース

与党・洪氏「最後は中国との統一必要」 「憲法の精神を分析」と弁明 2015.10.2 19:08 産経ニュース

訪日では政治避け経済特化? 総統選候補の蔡英文民進党主席が会見「日本の経験に学びたい」 2015.10.1 19:17 産経ニュース

最大野党の蔡英文候補、安倍首相の地元・山口訪問へ…親日をアピール 2015.9.29 12:00 産経ニュース

Taiwan allocates NT$3 billion budget to build its own submarines Thursday, 03 September, 2015, 4:23pm  South China Morning Post

親民党主席の出馬表明、与党国民党には不利か 世論調査では「1強2弱」で蔡英文氏優勢 2015.8.6 19:16 産経ニュース

女性対決に、国民党が洪氏を正式決定 支持率は民進党・蔡氏47%に対し、洪氏は27%… 2015.7.19 18:51 産経ニュース

台湾の「日の丸原発」建設を凍結 世論高まり受け 来年1月の総統選後には「建設中止」の可能性も 2015.7.1 20:31 産経ニュース

台湾・総統選は「女性同士の戦い」か 国民党の洪氏、支持率要件をクリア 2015.6.14 13:39 産経ニュース

中国「安定に反する」 台湾野党との会談で米批判 2015.6.10 14:12 産経ニュース

「10月に記念館開館」台湾・馬総統 2015.6.4 07:00 産経ニュース

台湾・馬総統、記念演説に元慰安婦を招待 「悲しい物語思い出す…」 2015.5.20 17:44 産経ニュース

「日本の侵略者による国辱忘れるな」 中国で慰安婦映画発表会 対日歴史宣伝戦の一環 2015.5.18 19:51 産経ニュース

シリア内戦はイスラム原理主義のピークとなるか

シリア内戦へのロシアの軍事介入は、周辺各国の軍事外交から難民政策に至るまで大幅な転換を促している。

ウクライナ危機から独仏が半ば手を引いた。イエメン内戦では国連による和平勧告がなされた。欧州は“難民の行軍”のトルコルートを潰す一環に、対ロシアを名目として、シリア-トルコ国境沿いにNATO即応部隊展開を企んでいるのではないか。

Yemen conflict: Houthi rebels commit to UN peace plan 6 October 2015 BBC NEWS

歴史上、もっともイスラムの世俗主義化に貢献してきたのはソビエト連邦と、その後裔国家であるロシア連邦だった。

しかし、ソ連のアフガン侵攻(1979年~1989年)は、全世界におけるイスラムの世俗主義化から原理主義化へのターニングポイントになった。ソ連崩壊の一因ともなった。

米国のカーター政権はイランのイスラム革命(1979年)には有効な対応策を取れず、アフガニスタンではムジャヒディンを支援した。共産主義を打倒するために、原理主義を援助した当の米国が逆撃を被り、アフガニスタンとイラクに大兵を送り込んで、疲弊したのはつい最近の歴史の教えるところだ。

ソ連崩壊後の血みどろのチェチェン紛争(1994年~1996年、1999年~2009年)は、イスラムの原理主義化のロシア国内のピークであった。

血みどろの戦いを産湯として、エリツィン大統領からプーチン大統領へ権力委譲が行われ、ロシアは国内経済の自律性を回復した。この回復過程は、グローバリゼーション=アメリカナイゼーションの時代のさなか、世界貿易が倍増した期間とも重なっていた。

そして、ロシアのシリア内戦への軍事介入(2015年~現在)は、イスラムの原理主義化を押しとどめ、反転させるターニングポイントになるかもしれない。

ロシアは、ISIS(イスラム国)全体を潰す必要はないが、参画しているチェチェン人及び北コーカサスの原理主義過激派を誘引して、クルドと挟み撃ちにすることは望むだろう。

トルコを含むスンニ派の諸国に対するロシアの軍事と外交は、原理主義勢力への牽制に力を割くことになる。

原理主義のイデオローグを輩出して、過激派の思想的母胎となったムスリム同胞団(同胞団自身は、相対的に穏健派である)の要人は、エジプト本国から追放されたが、カタール次いでトルコが保護している。また、サウジアラビアの新国王もムスリム同胞団との関係改善を望んでいる。

サウジアラビアなど湾岸諸国は、王族や大富豪の財力を以って、原理主義過激派の民兵組織を支援してきた。米国もそのひそみに倣おうとある程度、穏健とみられる民兵組織への援助を行ってきたが、シリアではどうやら失敗に終わったようだ。

シリア反体制派の「イスラム国」掃討、米支援内容見直し 2015年 10月 10日 04:25 JST ロイター

Obama Administration Ends Effort to Train Syrians to Combat ISIS OCT. 9, 2015 The New York Times

ロシアがアラブ社会主義(世俗主義)で最後に残ったアサド政権を支援することは、その意味で欧米のみならず我が国にも利益をもたらす結果になるかもしれない。

現在、非難と怨嗟の声を浴びながらも、ロシアは原理主義過激派を一手に引き受ける役割を担っている。舌戦を繰り広げても欧米が本格的な対ロシア制裁に踏み出さない理由は、自らは失敗した汚れ仕事を押し付けたいからであろう。

NATOの即応部隊はロシアと対峙できるか

NATOはトルコ-シリア国境に即応部隊を派遣する可能性が高まっている、と発表した。この即応部隊はウクライナ危機に対応して発足した。

米国のカーター国防長官は、ロシア軍のトルコ領空侵犯を非難し、第二戦線が国境線に沿って出現した、と発言した。対するロシア当局は領空侵犯は意図的なものではなかった、と主張する。

NATO ready to send troops to Turkey-Syrian border as risk of conflict with Russia grows Thursday, Oct. 08, 2015 6:31AM EDT The Globe and Mail

領空侵犯を受けたトルコのエルドアン大統領は、ロシアから黒海を経由してトルコに至る、天然ガスパイプライン「ターキッシュ・ストリーム」の白紙撤回を仄めかしている。

大トルコ主義とイスラム原理主義に傾斜しているエルドアン大統領の思惑を図ってみよう。

原理主義的傾向に従えば、ISIS(イスラム国)の存在を一定の勢力規模であれば黙認すると思われる。大トルコ主義的傾向に従えば、トルコ~シリア~イラク~イランに分布するクルド人の回廊を通り、テュルク系国家へ入ることを望んでいる。以前から、イラクのクルド自治政府との関係は良好であったが、クルド労働者党(PKK)との関係悪化もあり、ISISを中央アジアに達する際の牽制役に用いたいのかもしれない。

さて、アナトリア半島のみで落ち着いている現在のトルコは、地政学的に最大の敵であったロシアとも関係は安定している。

大トルコ主義の最大の欠点は、ムスリムのテュルク系民族の途上にキリスト教国のアルメニアが存在していること、加えてコーカサス山脈の南側にあるアゼルバイジャンを踏破しても、さらに世界最大の内海であるカスピ海が立ちはだかり、中央アジアの諸国・トルクメニスタン、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスとの交通を妨げられやすいことにある。

トルコはロシアとの利害関係を調整してきたが、アルメニアの潜在的な敵対意識を制御することまで、ロシア外交に可能なのかまでは不明である。また、ISISへの融和的姿勢はロシアとの潜在的な利害対立を生む。チェチェン人並びに北コーカサスの反ロシア勢力がISISに参画していると思われるからだ。

そして、NATOの即応部隊はウクライナ危機に備えて発足しながら、ウクライナを助けてはいない。

2012年の6月にシリア軍機(アサド政権)がトルコ軍機を撃墜した際に、NATOは復仇の原則に従い集団的自衛権を行使することもできたが、それをしなかった。NATOは安保理決議を軍事介入の要件としていた。

今回、ロシアの反対にあうことが予想され、間違いなく安保理決議は通らない。NATOはそれでもロシアと対峙するのであろうか。

ポロシェンコ大統領、敗れたり

ウクライナ、ドンバス紛争の停戦合意「ミンスク2」の進捗に関して、ドイツ-フランス-ロシア-ウクライナの4ヶ国会談がパリで行われた。この停戦合意「ミンスク2」は、あくまでもドンバス紛争に関するものであり、ロシアのクリミア半島の事実上併合とは何ら関係ない。

「ミンスク2」の停戦プロセスは、親露派のドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国に一定の自治を認める一方、ウクライナの領土の一体性保全を保証する(ウクライナ-ロシア間の国境管理権を回復する)、というものだった。

また、ウクライナの主権を残しつつ、両共和国の選挙を行うためには、ウクライナ最高議会(ヴェルホーヴナ・ラーダ、一院制)による法改正が必要であったが、これには議会内の紛糾が予想され、散発的な戦闘の発生を理由に、ポロシェンコ政権は法改正を遅らせていた。

ポロシェンコ政権は、和平合意に関わった独仏の後援を期待していたが、シリア内戦の“難民爆弾”が炸裂して、その爆風が独仏をロシア側に追いやる結果となってしまった。

ロシアは、親露派の独自選挙を取り下げる代わりに、独仏は、OSCEの選挙監視オブザーバーを同地に入れることとし、ポロシェンコ政権は本来、出来る限り、先送りしたかった両共和国の選挙実施を迫られることになった。

Ukraine Is Being Told to Live With Putin OCT 5, 2015 7:44 AM EDT Bloomberg View

Russia Turning The Corner On Sanctions OCT 7, 2015 @ 11:27 AM Forbes

ukrine's Diminishing Air Force Thursday, October 08, 2015 Radio Free Europe

ポロシェンコ政権が議会の紛糾を乗り越えて、「ミンスク2」に基づく選挙を行っても、政権と政権与党の支持率が上がることはないだろう。領土の一体性保全は確認されても、親露派の勢力がプーチン大統領の意を受けて、ウクライナの鼻面を引き回すのは大概、予想できる。

しかも、クリミア半島の辺土一片すら還ってくる訳ではない。合意の進捗を理由に、独仏にはロシアへの経済制裁緩和の可能性すらある。

そうした仕打ちをされても、デフォルト寸前のウクライナには、ドンバス紛争を再開する余力が財政的にない。

しかも、ラジオ・フリー・ヨーロッパの記事では、ウクライナ軍の稼働航空戦力が、2014年から2015年のうちに漸減し続けていると、指摘されている。MiG-29は80機から19機、Su-24は25機から11機、Su-25は36機から15機、Su-27は36機から16機、となっている。

NATOはウクライナ危機を受けて、師団規模の即応部隊を編成しているが、クリミア半島にもドンバス地方にも投入される気配はない。ウクライナはNATO加盟国ではない。ただし、NATOは加盟国外のユーゴスラビア内戦に国連安保理議決なしに空爆している。

1995年のOperation Deliberate Force(ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争)と1999年のOperation Allied Force(コソボ紛争)がそれである。それぞれの紛争終結後の和平合意の実施、治安維持の部隊派遣は安保理決議に基いている。

ポロシェンコ政権は現状の政治的敗北を受け入れるしかないだろう。敗北の中で希望を見出すとすれば、クリミア半島の切り離しで、親露派の大統領が誕生することはなくなった。そして、経済制裁の緩和があるならば、ロシア経済圏からの急速な離脱に伴う経済的苦境はひとまずなくなる、ということだ。

プーチン大統領の演説に見られる国際連合の性格

第2次大戦終結から70周年、つまりは国際連合の総会も第70回目を迎えて、9月末に各国の首脳が米国を訪れた。我が国の安倍首相を始め、ロシアのプーチン大統領、インドのモディ首相、中共の習国家主席、バチカンのフランシスコ教皇、ほかにも多くの首脳が自国のプレゼンスを示し、企業との大規模契約にサインし、それぞれが首脳会談を行い、あるいは総会に登壇して演説を行った。

「アラブの春」を恐れるロシア 2015年10月07日(Wed) WEDGE Infinity

(翻訳・抜粋)
尊敬する代表の皆さん!尊敬する国連事務総長殿!尊敬する各国首脳の皆さん!紳士の皆さん!

 国際連合の70周年は、歴史と我ら全員の将来を考えるのによい機会です。1945年、ナチズムを打倒した諸国は、戦後世界の秩序を築くべく努力を結集しました。

 思い起こしたいのは、国家間関係の原則に関する重要な決断と、国際連合の創設に関する決断は、我が国のヤルタにおける反ヒトラー連合の首脳会談で採択されたということです。ヤルタ体制は、この星で20世紀に起こった二度の世界大戦に出征した何千万という人々の生命に実際に敬意を払ったものであり、過去70年間の過酷で劇的な出来事の中で客観的に人間性を保つ助けとなり、世界を巨大な波乱から救ったのです。

 国際連合は、その正当性、代表性及び広範さにおいて比類なきものであります。たしかに過去、国連の場においては少なからぬ批判がありました。これは効率性の不十分さを示すものであり、特に国連安保理のメンバー国間では重要な決定に関して覆いがたい対立があります。

 しかし、申し上げたいのは、国際連合が存続してきた70年間において、意見の相違は常に存在していたということです。そして拒否権も常に行使されてきました。米国も、英国も、フランスも、中国も、ソ連邦も、そして後のロシアもこれを行使してきました。これは多面的な代表機関ではごく自然なことです。国際連合の基本として、そこでひとつの意見が圧倒的であるということは想定されていなかったし、今後もないのです。この組織の本質とは、妥協を模索し、生み出すことなのであり、多様な意見や観点を考慮に入れることがその力になっているのです。

 国際連合の決定を巡る議論は、決議という形で合意されます。合意に至らない場合については、外交官達の言うところの「うまくいったりいかなかったり」ということになります。そして、この手順を外れれば、いかなる国の行動であっても、それは非合法で、国際連合憲章と現代の国際法に違反することになります。

 いわゆる冷戦が終結した後、世界にはひとつの支配的なセンターが残ったことを我々は知っています。そして、このピラミッドの頂点に立った者は、次のように考える誘惑に駆られました。いわく、彼らはかくも強く、特別で、物事をどうすればよいか誰よりもよく知っているのだと。そして彼らには国際連合を顧みる必要などなく、国際連合は彼らの決断に判子をついて追認すればいいのだと。この組織はすでに古くなり、歴史的な使命を負えたのだという話も出ました。

 たしかに世界は変化しており、国際連合はその自然な変容に合わせなければなりません。ロシアには、広範な合意に基づき、国際連合のさらなる発展に関する作業に全てのパートナーとともに関与する用意があります。しかし、我々は、国際連合の権威と正統性を損なう試みは極めて危険なものだと考えます。それは、全ての国際関係の枠組みの崩壊につながりかねないものです。そうなれば我々には力のルール以外、いかなるルールも残らないでしょう。

 それは、エゴイズムが協調に、平等と自由が支配に、真の独立国家が外から指図される保護領に取って代わられる世界となるでしょう。

 では、すでに同僚の皆さん達がここで語った国家主権とはどのようなものでしょうか?これは何よりも自由の問題であり、各人、各民族、各国家が自らの運命を自由に決せるということであります。

 そこで、尊敬する同僚の皆さん、いわゆる正統な政府というものについても語りたいと思います。言葉を弄んではなりません。国際法及び国際関係においては、それぞれの擁護は明確かつ透明でなければならず、共通の意味を持ち、共通の基準で定義されなければなりません。我々はみんな違っているのであり、そのことについて敬意をもって臨まねばなりません。何人も、誰かが正解だと決めた単一の発展モデルに従わされる必要はないのです。

 我々は過去の経験を忘れてはなりません。たとえば我々はソ連邦の経験を援用することができます。ソ連は社会実験を輸出し、イデオロギー的な理由から他国の社会変革を推進しましたが、その結果はときとして進歩ではなく混乱でした。

 しかしながら、誰もがそのような誤りに学ぶわけではなく、それを繰り返す者もいます。そしていわゆる「民主的な」革命の輸出を続けています。

 これ以前の登壇者の方が触れた、中東及び北アフリカの状況を見れば充分でしょう。たしかにこれらの地域における社会経済的状況は長らく混乱しており、人々はそれを変革したがっています。ですが、実際の結果はどうでしょうか? 改革をもたらす代わりに、攻撃的な介入が国家機関と現地の人々の生活を破壊しているではありませんか。民主主義と進歩の代わりに、今そこにあるのは暴力、貧困、社会不安、そしてただ生きる権利を含めた人権の全くの無視ではありませんか。

 そこで、このような状況を作り出した人々に私は問いたい。あなた方がやったことを少なくとも理解くらいはしているのだろうか、と。しかし、私が恐れるのは、傲慢と、例外主義と、罪悪感のなさゆえに彼らがその政策を撤回せず、答えがないままこの問いが虚しく空中に消えることです。


プーチン大統領もまた、国連総会で演説した。上記のコラムから、その演説を抜粋するに、国連の歴史的経緯とその功罪を述べながら、それでもなお、自国の国益に沿って国連の価値を再評価している。

冷戦終結後の一極支配が、ユーゴスラビア内戦に見られたNATO単独の軍事介入を許す結果となり、その前例に従って、現在のシリア内戦に見られるロシアやイランの軍事介入につながったことを正当化しつつも、一極支配の中で米国の民主主義と資本主義こそがスタンダードであり続けた弊害が、別の価値観を持つ側の人権を抑圧しているのではないか、と主張する。

まるで自国の弱さを半ば告白する形で、多様な世界の有り様では、多様なイデオロギーを持つ国家の生存権が認められるのではないか、と。

国連に集う主権国家は多様であり、それゆえにイデオロギーや宗教や国家体制についても自由であるべきだ、と主張している。そして、イデオロギーや国家体制の異なる各国と現実主義的な外交を展開している。

ロシア、サウジと石油市場めぐり先週協議=エネルギー相  2015年 10月 6日 19:36 JST ロイター

ロシアは、アラウィー派(シーア派の一分派)のアサド政権を支援するため、シリア内戦に介入した。その一方で、ザイド派(これもまたシーア派の一分派)を倒すためにイエメン内戦に介入するサウジアラビアとも協力関係を模索する。

次いでロシアは、イランをシリア内戦に引き込む一方で、イランの核開発に反対の姿勢を崩さないイスラエルとの間にゴラン高原には進出しない旨の協議を行っている。

さらにロシアは、シリアなどからの“難民爆弾”に悩む独仏との間にウクライナ和平会談を進め、ドンバス地方の親露派地域における選挙にOSCEを巻き込み、むしろウクライナのポロシェンコ大統領を守勢に追い込んでいる。

ウクライナがそうであるようにトルコもまたロシアの牽制を受けて、退かざる得なくなりつつある。ロシアは、トルコと同じくISIS(イスラム国)を大義名分にすることで、欧米に協調のシグナルを送り続けると同時に、シリアからイラクに勢力を伸ばしているクルド人勢力の支持を得て、ISISをクルド人勢力弱体化の隠れ蓑に使うエルドアン大統領を追い詰める。

無論、これらは自国の兵力を極力使いたくない米国、オバマ政権の思惑に支えられている、と思われる。

国連での演説から、ロシアの立場はよく分かる。また国連の性格も再認識できる。過去から現在に至るまで、国連憲章は戦争を拒否していなかったし、国連は普遍的(ユニバーサリズム)な機関でもなかったし、敵国条項を有するように第2次大戦後のレジームの現状維持のための機関であったし、加盟国が政治的了解を模索する場に過ぎない、ということだ。

NATO強硬派のトルコを牽制するロシア

シリア内戦で空爆を行っているロシア軍機がトルコ領空を侵犯した。NATO事務総長が非難し、トルコのエルドアン大統領は「容認できない」と発言している。

トルコはNATO加盟国のなかで唯一、シリア国内の飛行禁止区域の設定を求めている。また、同時にイラク北部に拠点を置くクルド労働者党(PKK)を空爆している。

対して、シリアのクルド人政党のPYDとYPG(PYDの戦闘部隊)は、ロシアの軍事介入を歓迎している。トルコがPKKの延長線上にPYDを見ている、と懸念しているからだ。彼らは、ロシアの空爆にはトルコの空爆を相殺する効果がある、と考えている。

Turkey says Russian warplane violated its air space near border with Syria OCT 5, 2015, 3:25 PM SGT The Straits Times

ロシア:トルコ領空侵犯 NATO事務総長が非難 2015年10月05日 23時07分 毎日新聞

ロシアとシリア国内のクルド人勢力の利害は一致している。ロシア軍機のトルコ領空侵犯が偶然か意図的かは分からない。意図的と見ると、シリアからイラクに伸びるクルド人勢力の回廊(事実上、独立したクルディスタンとなりうる)はイランから中央アジアに接続できる。しかし、対立が過ぎると、トルコはこの回廊のアクセスを喪失するかもしれない。

これではクルドとロシアの接近によって、エルドアン大統領の企図する大トルコ主義の夢は、さらに遠ざかることになる。最悪の事態を避けるには、ロシアによる牽制の意図を汲みとって、妥協点を探る必要が出てくるだろう。

二正面作戦を避けるロシアと同意する欧米

シリア内戦への軍事介入を深めているロシアに対して、欧米は経済制裁を強化するでもない。ウクライナ危機に伴って、ドンバス地方で起きていた紛争の停戦合意(ミンスク2)のプロセスが進捗していないにも関わらず、独仏はさらなる圧力をかけずに、停戦を延長する。

ミンスク合意では、親露派の支配地域は「ウクライナ法に基づく選挙」を行うこととされている。合意を素直に読めば、ウクライナ政府に干渉できる余地があると考えるのはむしろ当然であろう。親露派は独自の選挙を行おうとしていたが、これを先送りした。また親露派を後援するロシアも兵力の後退を進めていると見られる。親露派の軟化は、彼らへのロシア側の影響力の高さを実証している、とも云える。

欧州安全保障協力機構(OSCE)のオブザーバーも選挙監視のため、ドンバス地方に入る。このプロセスが実現すれば、南オセチア紛争の停戦と同様の経過をたどる。

かつての冷戦期ならば、欧米はあらゆる紛争地域で覇権を競い合った。しかし、新冷戦と呼ばれている昨今にも関わらず、ウクライナとシリアで戦闘を行うロシアに対して、欧米の圧力は強まってはいない。

欧米は、ロシアとアサド政権に対する非難はすれども、シリア内戦への本格的な軍事介入を避けている。NATO加盟国として、シリア国内の飛行禁止区域を訴えるのはトルコのみ。

むしろ、シリアやイエメンなどで繰り広げられているスンニ派とシーア派の勢力争いの均衡のためには、イラン1ヶ国だけでは役不足と見て、ロシアを巻き込むことを黙認している、と考えられないか。そうでなければ、二正面作戦を避けたいロシアの思惑に付き合う欧米の意図が容易には理解できない。もっともこの黙認がいつまで続くか分からないし、ロシアも欧米の相対的な好意をいつまでも期待している訳ではないだろう。

ウクライナ:停戦履行期限先延ばし 親露派地域、選挙延期 4カ国合意 2015年10月04日 毎日新聞

【モスクワ真野森作、パリ宮川裕章】パリで2日に行われたウクライナ東部情勢に関するフランス、ドイツ、ロシア、ウクライナの4カ国首脳会談は、親露派武装勢力の支配地域で予定されていた独自選挙の先送りなどに合意し、紛争沈静化へ向けて一定の成果を上げた。ただ、年内の和平プロセス完了を想定した2月の停戦合意(ミンスク合意)は、期限があいまいなまま引き延ばされた。シリアで空爆を始めたロシアの思惑を反映し、ウクライナ東部紛争は当面、対立の火種を宿した現状を維持する形で推移しそうだ。

 「我々はミンスク合意に反したウクライナ東部での選挙は望まない」

 約5時間に及んだ会談後の記者会見でオランド仏大統領は、争点となっていた親露派独自の地方選挙を先送りさせるとの合意内容を明らかにした。今月18日と11月1日に計画されていた親露派支配地域の地方選は、ウクライナの法律と全欧安保協力機構(OSCE)の基準に合致させたうえで、OSCEの選挙監視の下で実施させることに決まった。オランド氏は「投票までに3カ月を要する」との見方を示し、ミンスク合意の履行期限が来年以降にずれ込むことを確認した。

 2月に4首脳がまとめたミンスク合意では、年末までに親露派支配地域を特別自治区にするなど政治面での和平を達成し、ウクライナ政府による国境管理を回復させると規定していた。ウクライナのポロシェンコ大統領は今回の会談について「停戦の条件は整えられている」と評価した一方、「全ての領土が解放されなければ戦争は終わらない」と述べ、今後の展望には厳しい見方を示した。

 停戦合意の履行期限があいまいになったことで、ウクライナ政府に課された地方分権へ向けた憲法改正と特別法制定の手続きや、東部の経済復興などが停滞する恐れもある。

 一方、ロシアのプーチン大統領は今回、親露派による地方選挙の延期を容認するという譲歩を示した。ペスコフ露大統領報道官は「プーチン大統領は『この問題について代表者に伝えるよう指示する』と約束した」と述べ、親露派に影響力を行使する姿勢も見せた。

 プーチン氏の柔軟姿勢の背景には、国際的に守勢に立たされるウクライナ問題は当面沈静化させ、露軍が9月末に空爆を始めたシリア問題で国際社会の「プレーヤー」として復活を果たそうという思惑が透けて見える。

 プーチン氏は2日、4首脳会談に先立ってオランド仏大統領と会談。シリアでの露空軍の作戦概要や、過激派組織「イスラム国」(IS)に対抗するためとしてロシアがシリア、イラク、イランと計4カ国で設置した情報センターについてオランド氏に説明した。

 ロシアは、シリア問題に関して軍事・外交攻勢をかけることで、ウクライナ危機を巡る欧米諸国の経済制裁を解除させることも狙っている模様だ。欧州連合(EU)はミンスク合意の履行状況を見極めて年末までに制裁延長の是非を決める予定だからだ。

 ただ、ドイツのメルケル首相は会談後の記者会見で「(シリア内戦の)政治的解決へ向けた支援をロシアから得るために、ウクライナ危機で譲歩することはない」とクギを刺した。


ウクライナの親露派、戦車撤収開始と発表 かつてない和平の兆し 2015年10月03日 20:54 AFP BB NEWS

【10月3日 AFP】ウクライナ危機をめぐる4か国首脳会議から一夜明けた3日、ウクライナからの分離独立を掲げる親ロシア派の武装勢力が、ウクライナ東部の緩衝地帯からの戦車の撤収を開始したと発表した。

 ウクライナ東部の公式報道機関は、「ルガンスク人民共和国(Lugansk People's Republic、LPR)の民兵は、ミンスク合意に従い、接触線からの戦車の撤収を開始した」と伝えた。ミンスク合意とは今年2月にベラルーシの首都ミンスク(Minsk)で、欧州連合(EU)の支援で結ばれた停戦合意を指す。

 ウクライナ政府と親露派武装勢力は今週、緩衝地帯から戦車と軽火器を引き揚げる作業を3日から開始することで合意していた。双方が口径100ミリ以下の迫撃砲やロケット砲を交戦ラインから15キロ離れたところまで移動させるには、40日以上かかる見込み。

 ウクライナ危機に終止符を打つため、ウクライナ、ロシア、フランス、ドイツの首脳は2日、仏パリ(Paris)で4か国首脳会議を行った。その際ウクライナのペトロ・ポロシェンコ(Petro Poroshenko)大統領は報道陣に対し、「撤収は明日始まる。欧州安保協力機構(OSCE)との調整など技術的な問題は全て解決した」と語っていた。

 ここ数週間、ウクライナ東部での戦闘はほぼ止まっており、2014年4月からこれまでに8000人以上が命を落としたウクライナ紛争は、かつてないほど和平に近づいているように見える。(c)AFP

シリア内戦の“毒を以て毒を制す”

ガーディアン紙とワシントン・ポスト紙の記事から、シリア内戦へのロシアの軍事介入について、内戦にそれぞれ関与するアラブ・中東地域の各国、各勢力のスタンスを読む。そこには“毒を以て毒を制す”の考え方が見え隠れする。

Gulf states plan military response as Putin raises the stakes in Syria Sunday 4 October 2015 00.05 BST The Guardian

トルコとカタールは北部の反乱勢力、サウジアラビアは南部の反乱勢力を支援してきた。ただし、アサド政権が急速に瓦解して、シリアに権力移行期間の空白=力の真空状態が起きることを怖れて、その支援は抑制的なものだった。

これは複雑な人種・宗派構成を考えてのことだったのだろうが、ロシアの介入によってこの抑制が失われるかもしれない。

しかし、トルコはクルド労働者党(PKK)との和平が崩壊しており、支援を増やせない、と見られる。

一方、サウジアラビアとカタールはイエメン内戦への介入をすでに行っているが、支援拡大には前向きである。また、イランの核合意に不満を持つサウジアラビアにとっては、地上部隊を派遣し始めたイランが少なからず打撃を受けることを歓迎する意図が見え隠れする。

Russia’s military is unlikely to turn the tide in Syria’s war October 3 2015 The Washington Post

シリアのクルド人政党のPYDとYPG(PYDの戦闘部隊)は、ロシアの軍事介入を歓迎している。トルコがPKKの延長線上にPYDを見ている、と懸念しているからだ。彼らは、ロシアの空爆にはトルコの空爆を相殺する効果がある、と考えている。

Top Syrian Kurdish leader seems to back Russian airstrikes  October 2 2015 The Washington Post

ロシアの立場はどうか。現時点でプーチン大統領は地上部隊を派遣しない、と発言している。ロシアはシリア全土を到底、奪回できないし、航空兵力の近代化(精密誘導爆撃など)にも遅れがあるのも空爆で明らかになった。Geneva2のような和平合意プロセスを望んでいるのではないか、とモスクワの中東問題専門家、Vladimir Yevseyevは指摘する。

ヒズボラ去りて、イラン来たる

シリア内戦のエスカレーションが続いている。ロシアの空爆開始に加えて、アサド政権側に立って、イランが地上部隊を派遣する。アサド政権(アラウィー派)とレバノンから参戦していたヒズボラの疲弊に伴って、シーア派の雄による軍事介入が始まる。

ヒズボラは引き続き参戦する、とロイター電にある。しかし、シリア難民の大量流入によって、レバノンの宗派別人口構成に大きな変動が起きており、ヒズボラは勢力回復のために最前線から撤退し、レバノンに帰還するとも考えられる。

シリアのドルーズ派はアサド政権から離反しており、これがレバノンのドルーズ派にも影響を与える可能性がある。現在のレバノンの連立内閣は統治能力を失いつつあり、つい最近、住民サービスのゴミ収集が滞り、暴動が起きていた。

サウジアラビアを盟主とするスンニ派とイランを盟主とするシーア派の代理戦争に直接、イランが介入し始めたことで、シリア内戦の性格が変わった。サウジアラビアはイエメン内戦への介入を深めている最中であり、この機会を捉えてシーア派はシリアにおける失地回復を図ると思われる。

つまり、イエメン内戦の戦況とシリア内戦の戦況は連動していくことになる。

Russia 'fuelling extremism' as Putin steps up Syria air strikes 10:23PM BST 02 Oct 2015 The Telegraph

ロシアのシリア空爆、3─4カ月続く見通し=下院国際問題委員長 2015年 10月 2日 17:29 JST ロイター

有志連合とトルコ、シリア反体制派への空爆中止をロシアに要請 2015年 10月 2日 16:52 JST ロイター

イラン部隊、地上戦に向けシリア入り アサド政権支援=関係筋  2015年 10月 2日 15:03 JST ロイター

[ベイルート/モスクワ 1日 ロイター] - レバノンの関係筋は1日、イランの軍部隊がアサド政権を支援するため、シリア入りしたと明らかにした。大規模な地上戦に参加するのが目的とみられる。

2人の関係筋によると、過去10日の間に数百人規模のイラン部隊が地上戦に向けてシリアに入国したという。戦闘にはレバノンのシーア派組織「ヒズボラ」やイラクの同派民兵も参加するほか、ロシアも空爆で支援する方針だという。

イランによるアサド政権への軍事支援はこれまで、主に軍事顧問の派遣という形で行われてきた。

一方、ロシアは同日、シリアで2日目となる空爆を実施。反体制派によると、米中央情報局(CIA)が訓練を行う同派のキャンプを爆撃したという。これに対し、ロシアは空爆の標的が過激派組織「イスラム国」の拠点だと主張している。

緩慢な死が新興国にもたらされる

中共の製造業購買担当者景気指数(PMI)は、今年4月以降、景況悪化の境目である50を割り込んできた。そして財新とマーク・イットによる民間のPMI速報値は10月から発表されなくなる。世界最大級のデビットカードである銀聯の海外ATM引き出し規制は、プレスリリースが9月29日発表で10月1日から適用された。

PMI速報値発表を中止 中国・財新など、今月から 2015/10/1付 日本経済新聞

中国経済の失速が、ほかの新興国経済と先進国経済に影響を与える。

新興国のヒト・モノ・カネの流れのうち、最初にカネの流れが滞り、回収できた資本は先進国に還流し始める。回収できなかった江守グループホールディングスは破綻した。

次いでモノの動きに現れ始める。景気減速によって、原油を筆頭にコモディティ価格の低落傾向は続く。商船三井傘下の第一中央汽船の破綻の一因はコモディティのスポット価格が下がり、さらには動かなくなっていることにある。

最後にヒトの流れが少なくなる。カネとモノの再分配がなくなれば、その地域では利権再分配を巡る政治闘争が暴動・テロ・内乱・内戦・対外戦争に発展して、利権を失った人々は死ぬか逃げ出すしかない。

レバントとマグレブ方面からの難民と不法移民の流出は、ヒトの流れとしては最終局面に差し掛かったものであり、いずれ“爆買い”を続けている中韓からの難民と不法移民を防ぐ必要性に我が国は迫られる。

リーマン・ショックは突発性の流動性危機だったが、中国経済の失速は緩慢な危機を世界にもたらす。新興国のなかには冷戦時に呼ばれていた開発途上国に逆戻りする国が現れるかもしれない。

新興国への資金流入、今年は1988年以来のマイナスに=IIF 2015年 10月 1日 23:19 JST ロイター

アングル:コモディティ大手の経営危機は市場の転機か 2015年 10月 2日 16:53 JST ロイター

コラム:商品相場の「スーパーサイクル」終焉か、途上国に暗雲 2015年 10月 2日 17:42 JST ロイター

第一中央汽船、5日に債権者向け説明会 2015/10/1 19:26 日経

コラム:リーマン危機と違う「緩慢なショック」進行か 2015年 10月 2日 12:58 JST ロイター

(前段略)

<8月の国内生産計画、大幅下振れの裏側>

市場では、1日発表の日銀短観での業況判断の悪化が小幅で、設備投資計画も強気が維持され「想定より強めの内容」(国内銀関係者)との声が漏れている。日経平均.N225も1万7500円台を回復し、「地固め」という見方さえ一部の市場関係者から出ている。

だが、私の目からは、そうした楽観的な見方に立っている市場関係者が、日本の鉱工業生産の「変調」に気付かない素振りを見せていることに強い違和感を感じる。

多くの市場関係者は、8月生産が事前のプラス予想から前月比マイナス0.5%と減少したことに注目。「単月の振れが大きいので一喜一憂しない」(国内市場関係者)との受け止めが多かった。

だが、その見方は表層的だ。同時に発表された9月予測値は同プラス0.1%、10月が同プラス4.4%だが、経済産業省の試算では、7─9月は前期比1.1%低下と、2期連続の減産となる見通し。

(後段略)


参考URL:
米国は中国発の世界経済の減速を乗り越えられるか 2015年9月30日 みずほ総合研究所(PDF)
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